政府は6月22日午前、中長期的な財政健全化を目指した「財政運営戦略」を閣議決定した。

 日本の経済・財政についての現状認識を述べた部分には、「財政状況が深刻さを増してきているにもかかわらず、改善を先送りできたのは、長期金利が上昇しなかったことが大きい。その背景には、豊富な国内貯蓄の存在や、長引くデフレ・景気低迷を反映した企業部門における資金需要の減少、家計・銀行・公的セクターなどによる国内における安定的な国債保有構造といった、我が国独特の要因がある。しかしながら、こうした環境にいつまでも安住していられるわけではない。高齢化による貯蓄率の低下というマイナス要因は、今後大きくなっていくと見込まれる。また、今後景気の回復が続けば、設備投資の活性化等により、企業部門の資金需要は回復していくことになり、これ自体は経済に必要なことであるが、他方で国債金利の上昇にもつながることとなる」という記述がある。筆者としても、このような状況認識にはまったく同感である。

 財政健全化の具体的な目標として今回掲げられたのは、収支(フロー)の面では、(1)2010年度見込みが▲6.4%になっている国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字幅を、遅くとも2015年度までに半減し、遅くとも2020年度までに黒字化する、(2)国の基礎的財政収支についても(1)と同じ年度における半減・黒字化を達成する、(3)2021年度以降も財政健全化努力を継続する、の3点。また、残高(ストック)の面では、2021年度以降に国・地方の公債等残高のGDP比を安定的に低下させる、ということが目標とされた。

 ただし、いわゆる弾力条項も明記されている。すなわち、「内外の経済の重大な危機その他の事情により財政健全化目標の達成又は財政運営の基本ルールの遵守が著しく困難と認められる場合には、財政健全化目標の達成時期等の変更や財政運営の基本ルールの一時的な停止等の適切な措置を講じるものとする」ということになっており、経済情勢次第では目標の年度が先送りされる。

 財政運営の基本ルールの1つとして、「ペイ・アズ・ユー・ゴー原則」が今回、明記された。「歳出増又は歳入減を伴う施策の新たな導入・拡充を行う際は、原則として、恒久的な歳出削減又は恒久的な歳入確保措置により、それに見合う安定的な財源を確保するものとする」ということである。これは、財政規律を維持する上で、有効なツールになるだろう。

 ただし、荒井聡国家戦略相はこのルールに「原則として」という限定が加わっている点について「連立の合意などで政治的な条件が変化することは十分にある」「その場合には、この原則が適用できない場合もある」と述べて、例外もあるとの認識を示したという(ブルームバーグ)。やはり、参院選の結果とその後の政権の枠組みは重要である。

 そして、向こう3年間の予算編成の大枠を定めた「中期財政フレーム」では、2011~2013年度の「基礎的財政収支対象経費」(一般会計歳出から国債費及び決算不足補填繰戻しを除いたもの)について、2010年度予算の規模である約71兆円(これを「歳出の大枠」と位置付ける)を上回らないように抑制することが明記された。さらに、2011年度の新規国債発行額については、2010年度予算の水準(約44兆円)を「上回らないものとするよう、全力をあげる」と記された。絶対的な拘束力のある規定ではなく、努力義務という扱いであることが弱点だが、昨年秋の一時的な「悪い金利上昇」局面以降、安易な国債増発を警戒しがちな債券市場に対しては、いわば「精神安定剤」のような効果は期待できそうである。

 6月22日夕刻の債券市場では、10年債利回りが1.185%に低下し、2009年1月5日以来の低水準になった。国内債券は、とにかく売られにくい地合いであり、1.185%を目指して断続的に金利低下余地を模索する流れにあると、筆者はみている(6月21日作成「国内債券は『売られにくさ』強まる」参照)。

 このように、「財政運営戦略」は、すでに述べたようないくつか気になる点があるにせよ、財政健全化に向けた「総論」的なペーパーとしては、充実した内容を含んでいると言ってもよいだろう。ところが「各論」になると、このペーパーは弱点を数多く抱えている。

 まず、財政健全化目標の達成に向けた具体的なアクションがはっきりと記されていない点が、このペーパーは明らかに弱い。