中国の法律と治安条例では、労働者のストライキが禁止されているが、最近、ホンダなど中国に進出している日系企業でストライキが発生し、広く飛び火する勢いを見せている。
資本主義の国では、ストライキは労働者が自らの利益を守る権利として憲法上保護されている。社会主義の中国では、理論上、労働者は国家の「主人公」であり、ストライキを行う必要はないはずである。
しかし、実際の中国社会を見ると、「改革開放」政策以降、市場経済への制度移行が進められ、労使関係は資本主義と同じようになっている。
現に、過去15年間、労働者の賃金はわずかしか上げられていない。労働者が自らの利益を守る集団的交渉権が法的に剥奪されている。このまま行けば、賃金が抑えられている労働者の不満が大きく爆発する恐れがある。
最近、国内研究者の間で、大規模のデモに発展しないという前提で、いかにして労働者に集団的交渉権を付与するかについて議論されている。
歴史的に見て、今回のストライキは、中国の市場経済の構築が本物になりつつあることの証明であると言ってよい。当事者にとっては不愉快なことだろうが、中国の経済史に残る出来事となるだろう。
低付加価値製品の輸出で成長するモデルが終焉?
少し前のことだが、米中の戦略対話で中国商務部長は、中国は大きな貿易黒字を実現しているが労働生産性が極めて低く、労働者はわずかな利益しか享受していないと語っていた。実際に、中国は8億枚のワイシャツを輸出して、ボーイングの旅客機を1機購入できる計算になると言われている。
一般的に、発展途上国と先進国の国際貿易は、途上国から先進国への利益の移転であると同時に、先進国から途上国への雇用機会の移転と理解される。
これまでのところ、中国は国際貿易ではそれほど大きな利益を享受していないが、国内の輸出製造業でたくさんの雇用機会をつくった。
途上国はこうした「垂直的分業」を通じて徐々に産業構造を高度化させ、やがて先進国と「水平的分業」になり、雇用機会も平準化するようになる。
ただし問題は、中国経済は低付加価値製品の輸出によって先進国のキャッチアップを実現しようとしており、政府も企業もそれに安住している点である。そのプロセスの中で一番犠牲にされているのは出稼ぎ労働者だ。