アベノミクスの評判がよい。為替レートは大幅に円安になり、1ドル100円にあと一歩というところまできた。日経平均株価も1万4000円付近に戻った。いずれも民主党政権の末期には考えられなった水準である。

 街角景気も改善し、デパートではプチ贅沢商品の売り上げが好調という。総じて国民はこの結果に満足しており、発足から5カ月が経過したにもかかわらず、安倍政権の支持率は7割前後を保っている。7月に行われる参議院選挙でも自民党の圧勝が予想されている。

 このアベノミクスが日本経済に及ぼす影響については、既に多くのことが議論され論点は出尽くしていると思うので、ここではそれとは違った視点からアベノミクスについて考えてみたい。

株価は上昇しても景気は元には戻らない

 極めてマクロな視点から見ると、アベノミクスは日本ではなく新興国を元気にしている。

 いきなりこんなことを書いても面食らうだろうが、そもそも金利を引き下げて市場に大量の資金を供給する手法は、現在、そんなに奇異な政策ではない。米国もEU諸国も行っている。アベノミクスは、大きな目で見れば、白川方正総裁の時代には抑制的に行っていた政策を、より大胆に行っているに過ぎない。

 ただ、大胆に金融緩和を行っても、景気が元に戻ることはないと思う。米国はリーマン・ショック以後に大胆な金融緩和を行ったが、それによって景気が元に戻ることはなかった。あれから5年が経過した現在でも、失業率の改善や個人所得は元に戻っていない。その効果は、株価の上昇に留まるようだ。

 その最大の原因は、先進国にものが溢れているためだろう。先進国に住む人々は、これと言って買いたいものがなくなってしまった。確かに宝飾品はいくらあっても邪魔にならないが、テレビや冷蔵庫は1台あれば十分である。庶民といえども、どうしても欲しいものはなくなってしまった。だから、金利を下げても消費に火がつかないのだ。

 そのために消費者に代わって国家が公共事業という名の下に消費を行ってきた。ただ、ヨーロッパや米国に比べて先進国になってからの日が浅くインフラ整備が十分でなかった日本でさえ、インフラ整備はあらかた終わってしまった。

 安倍内閣は国土強靭化のために公共事業を行うとしているが、これはインフラを造るのではなくその修繕を意味している。このことからも、新たにインフラを造る余地がなくなっていることが分かろう。