今の米国を知るうえで興味深い数字がある。

 昨年の米国産「地ビール(クラフトビール)」の売り上げが前年比で17%も増加しているのだ。国外への輸出量に限ってみると72%も増えている。

ビール販売が低迷するなか、活況の地ビール

 別に米ビール業界の詳細を特筆するのが本稿の趣旨ではない。ただ過去5年のビール業界の業績を眺めると、日米両国ともにほぼ横ばいか減少傾向にある中、地ビールだけが突出して勢いに乗っている。

 米国産の地ビールだけがなぜ売れているのか。その背景を探ると米国社会の現状が見えてくる。端的に述べると、各州で実施されている行政改革の成果が出てきたということである。

 もちろん地ビールの売り上げ増の一因として、リーマン・ショックから復調してきた米国経済も指摘すべきだ。米国ではこれまで、ビールの売り上げはブルーカラー層の消費動向に大きな影響を受けてきた。

 ビール市場の約半分を手中にするバドワイザーの製造元アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)の副社長も以前、「建設業界が打撃を受けると、ブルーカラー労働者の収入が減り、ビール業界は建設業界以上に打撃を受けてきた」と語っている。

 米建設業界の景気が上向くに従って地ビールの売り上げが伸びたとの説明は一理ある。だがそうであれば、地ビールだけではなくバドワイザーをはじめとする大手メーカーの他ビールの売り上げも増加しなくてはいけない。

 しかし昨年の売り上げは1%増に過ぎない。となると、地ビール業界の17%という数字はどこから来ているのか。

 実は米国のビール業界は昨年1月、1つの転機を迎えていた。それは「ビールの王様」と言われ続けたバドワイザーが、国内売り上げのトップから陥落して第3位になったのだ。1位と2位の座を奪ったのはいずれもライトビール(バドライトとクァーズライト)である。

 ちなみに第5位までのうち、バドワイザーを除く4ブランドがライトビールで、ビールの低カロリー時代が到来したことを物語っていた。かつて、バドワイザーの年間売り上げは5000万バレルに達したが、近年は1800万バレルにも達していない。