奴隷制がテーマのスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『リンカーン』(2012)が、先週末から劇場公開されている。
以前ご紹介した3月から公開中のクエンティン・タランティーノ監督作「ジャンゴ 繋がれざる者」が奴隷目線の娯楽映画なら、こちらは奴隷制にあぐらをかいてきた白人支配者目線の「正統派」歴史大作。
意外に少ないリーンカーン幼少期を描いた映画
期待を裏切らない力作に仕上がっているが、エイブラハム・リンカーンの生涯が見渡せる伝記映画だと思って見に行くと肩透かしを食らう。生涯最後の4カ月間だけに焦点が絞られているからだ。
リンカーンのイメージと言えば、アメリカンドリームを体現した「丸太小屋からホワイトハウスへ」というフロンティアの開拓民からの叩き上げ。事実、1809年、ケンタッキーの丸太小屋で生まれているのだが、そのあたりでは結構裕福な部類に属していたようだ。
しかし、米国はナポレオンからルイジアナをお手頃価格で購入したばかりで、西部開拓が勢いづき始めた頃のこと。そんなフロンティアの田舎では、正規の教育は1年も受けられなかったらしい。
人気も評価も歴代大統領トップを争う存在だから、登場する映画は数知れない。とは言え、資料が少ないこともあって、幼少期を描いたものはあまり見当たらない。そんななか、9歳の頃の母親の死が話の起点となっているのが『リンカーン/秘密の書』(2012)。
ファンタジーに史実を巧みに組み合わせたティム・バートン製作のこの映画、母の死がバンパイアの仕業だったことを知り、リンカーンがバンパイアハンターになる、という荒唐無稽なものだが、結構史実にも則しており、その生涯もたどれる作品となっている。
物語で相棒となるジョシュア・スピードも、1837年、リンカーンがイリノイの州都スプリングフィールドへとやって来た際、共同経営者となった雑貨屋の店主で、その後リンカーンの親友となるケンタッキーの裕福な家の出の実在の人物である。
この頃すでに州議会議員に当選、弁護士資格も得ていたリンカーンは、奴隷問題に興味を示すようになっていた。しかし、悪い制度だと分かっていても、現実的な方法が思い浮かばず、いずれ神が裁きをくだす、と考えていたようだ。
一方、『リンカーン/秘密の書』では、血液の供給に奴隷制度は実に都合のいいシステムであることから、バンパイアたちはその維持に努めていることが描かれている。