マット安川 ゲストに元外務官・佐藤優さんを迎え、北方領土をめぐる対ロシア外交の現状をはじめ、インテリジェンスの問題や日米関係の懸念点などを幅広く解説していただきました。

北方領土交渉の流れに変化、12年前に戻る

「マット安川のずばり勝負」ゲスト:佐藤優/前田せいめい撮影佐藤 優(さとう・まさる)氏
元外交官、文筆家。インテリジェンスの専門家として知られる。第38回大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞した『自壊する帝国』の他、『獄中記』『国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて』『3.11 クライシス!』『世界インテリジェンス事件史』など著書多数。(撮影:前田せいめい、以下同)

佐藤 今年2月、森(喜朗、元首相)さんがモスクワを訪問したのは、安倍(晋三、首相)さんの訪露を準備するという意味では非常によかったと思います。

 プーチン(ロシア大統領)さんは昨年から北方領土問題について「引き分け」などと言っていましたが、それがどういう意味なのかよく分からなかった。それが、日露双方が受け入れ可能な形を考えようということだと分かりました。ロシアとしては、何も条件をつけないで話し合いをするのであれば、何らかの妥協はしましょうと。

 ただし具体的なものはありません。ですから、この4月の終わりに安倍さんが訪露を予定していますが、その時は、1年以内くらいを目処に動かしていきましょうというような合意しかできないと思います。

 双方の外務省が1年以内に十分な準備を行って何らかの合意ができれば、来年プーチンさんが来日する時に北方領土問題は動きます。逆に、合意できなければ、プーチンさんは来日しない。そういう意味では日本の外務省の責任はこれから非常に重くなります。

 北方領土問題は、2001年に当時の森総理大臣とプーチン大統領が署名したイルクーツク声明をベースに交渉すれば、再び動き出す可能性があります。要するに、12年前に鈴木宗男さんが森さんと一緒にやろうとしていた路線に戻るということです。

 ただ12年経って、日本はその時よりも弱くなり、ロシアは強くなった。この状況でどういう妥協ができるのか、非常に難しい交渉になると思います。

 私としてはちょっと愚痴をこぼしたくなるのは、鈴木さんと私はあの時、国賊だと言われて捕まったわけです。ところが、いま政府がやっているのはあの時の路線です。それならなぜ捕まったのかと。

 まあちょっと早すぎたのか、もしくは12年経ってみんなが理解してくれたと思えば、それほど腹も立ちませんが。いずれにしろ、北方領土交渉の流れが変わってきたということです。

内調幹部の自殺で、日本のインテリジェンス業界に震撼

 いま日本のインテリジェンス業界を震えあがらせていることが起きています。この4月1日、東京都内のマンションの1室で、内閣情報調査室の幹部が自殺したんです。

 この人は外務省から出向していて、米軍の学校でロシア語を勉強して、そのあとモスクワにも勤務している。さらに外務省の国際情報統括官組織の課長級の幹部でした。