「武士メシに学ぶ」をテーマに前後篇にわたって記事をお送りしている。
前篇では、“武士メシ”が密かなブームになっている理由を、最近のマンガや書籍、マンガを原作に作られたドラマを通して探った。
後篇では、いくつかのレシピとその効能から、さらに武士メシの魅力に迫りたい。食文化研究家の永山久夫氏は、その著書『武士のメシ』(宝島社)で多くのレシピを紹介している。その中から日々の食卓にも載せられそうな2品を選んだ。また、テレビドラマにもなり、武士メシブームの火付け役の1つになった西村ミツル氏原作のマンガ『信長のシェフ』(梶川卓郎画、芳文社『週刊漫画TIMES』)から、戦国武将気分を味わえる一品を紹介する。
武将は味噌が大好きだった
武将たちが天下を取ろうとしのぎを削った戦国時代。天下に手が届いたのは、豊臣秀吉と徳川家康。織田信長はあともう少しのところだった。永山氏は『武士のメシ』で、3人が強かった理由を、「豆味噌」を食べていたからではないかと指摘する。
豆味噌は、3人の出身国である尾張や三河の日常食であった。現在、「八丁味噌」として知られる豆味噌は、大豆と塩だけで作る。普通の味噌と違って米麹や麦麹を使わないので発酵に3年かかるが、栄養豊富である。豆味噌には、ストレス軽減に働くセロトニンのもととなるトリプトファン、それにビタミンB6が多い。さらに、脳の機能を活性化させるレシチン、疲労回復や免疫機能強化につながるアルギニンなども含まれている。
ほかの武将も味噌は大好きだったようだ。その証しに、戦国時代には「汁講(しるこう)」という“味噌汁パーティー”があった。客人はご飯を弁当箱に詰めて持参する。一方、もてなす側の主人は味噌汁を用意する。味噌汁は鍋のまま客人の集う座敷に持ち出され、みんなで賞味した。たったこれだけだが、大いに盛り上がったと伝わる。
数ある武将の味噌汁の中から、今回は明智光秀の味噌汁を紹介する。光秀がまだ浪人の頃、妻が主人の顔を立てなくてはと自分の髪を売ってまで用意した食材で作った渾身の一品である。他家の味噌汁より豪華だったということから、イノシシの肉が入っていたことが考えられるという。汁といっても具沢山でおかずのようだ。
(参考:永山久夫著『武士のメシ』をもとに作成)
いまの時代、客人に振る舞う定番家庭料理といったら何になるだろうか・・・。学生時代、友だちと“弁当のおかず”を交換したことをふと思い出した。いま考えてみると、その家らしい味を知りたくてやったのだろう。戦国時代、その家らしさや武士の人間味を感じる一品といえば、味噌汁だった。光秀の味噌汁、ぜひ食してみたいものだ。