北米報知 2012年1月10日3号

 2013年度の国防権限法案が12月21日、圧倒的多数で上院を通過し、2日にオバマ大統領が正式に署名した。

 テロ対策強化のため策定された「愛国者法」の後継法といわれ米国における軍権限の大幅な拡大、場合によっては米国国民の逮捕と無期限勾留を司法手続きなしで可能にする危険性もはらむ。

 過去の経験から、懸念の声もあがる。 昨年末、国防権限法に反対し、日系関係者が政府を相手に連邦裁判所に提訴した。原告団は1942年当時に強制退去に反対し裁判で敗北、1980年代に名誉を回復した故ゴードン・ヒラバヤシ氏、故フレッド・コレマツ氏、故ミノル・ヤスイ氏の家族や弁護団が含まれる。

 原告側は非常時を口実に、時として恣意的な特定の人種、民族、宗教に対する迫害が正当化される危険性があることを懸念。「現在の政府が行おうとしていることは、1942年に12万人の日系人にしたことと同じ」と訴える。

 全米日系市民協会(JACL)もEメールによるニュースレター内で同法内に含まれた「起訴前無期限拘留」が持つ危険性を指摘し、同法反対を表明している。

 連邦議会の中にも、「悪意に他ならない」と積極的に反対の声を上げるランド・ポール上院議員や、一貫して反対票を投じる日系議員のマイク・ホンダ連邦下院議員ら、同法を問題視する政治家がいる。

 第二次世界大戦で起きた強制退去は、1942年2月19日に発せられた大統領令9066号が起因となった。特定地域を軍管轄下に置く権限を与えることで西海岸に住む移民一世のみならず、米国籍を持つ二世らも立ち退きを受けることになった。

 2001年の米中枢同時テロ事件後にアラブ系市民が迫害を受けた際には、日系人の個人、団体が自身の受けた経験や教訓をもとに政府に対し異を唱えている。(渡邉 朔)

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