いまタイでは好景気に支えられて自動車の販売が絶好調だ。リーマン・ショックまで年間の販売台数は60万台がピークだったのに、2012年は一気に140万台市場へと拡大した(「クルマは国家なり、韓国・欧米に隙見せるな!」)。

 バンコクはこの十数年間でBTSと呼ばれる高架鉄道や地下鉄が整備され、かつてのように100メートル先のオフィスビルに行くのに車だと1時間以上もかかるといった大交通渋滞は緩和された。しかし、ここ1~2年は渋滞が最悪期に近づいてきた。

急速に増える自動車に駐車場不足は深刻化の一途

日本駐車場開発の川村憲司副社長

 もちろん、理由は急拡大している自動車販売である。「モータリゼーションの波にインフラ整備が全く追いついていないという状況です。とりわけ駐車場はひどい」と川村さんは言う。

 新しいビルには駐車場の設置が義務づけられているとはいえ、増える車の台数の前には無力にさえ見える。しかも、せっかくビルに設けられた駐車場もビルオーナーやテナントなど一部のユーザーが押さえてしまっている。

 そのため、駐車場には余裕があるのにビルの外には止めるところのない車があふれ返っているという状況になっている。

 運転手を抱えている人たちは、ビジネスミーティングの間に運転手には路上を運転させて待たせているというのもごくありふれた光景だ。

 こうした状況に、川村さんはビジネスチャンスを見出した。「美女ローラー作戦」を展開し始めたのである。川村さんの美女スタッフチームがバンコク市内のビルの駐車場の利用状況を徹底的に調べ上げ、余裕のあるところをリストアップした。

 そして、その駐車場を持つビルのオーナーへ美女たちが貸し出してほしいと営業をかける。「これが意外にも効果があって、成約率が高いんですよ」と川村さん。

 ビルのオーナーにすれば、まさか若くて美人の才媛が駐車場を貸してくれと営業に来るとは思ってもいないから、驚いている間に契約書にサインしているというケースもあるのだろう。

 一方、美女たちにしても、バンコクの交通渋滞を少しでも緩和するというビジネスが社会貢献につながることもあって、モチベーションは高いという。「僕がいちいち指示しなくても、全員が積極的に動いてくれるんです」と川村さん。

 十分に人材が確保できないならできないなりにビジネスモデルを素早く変えて事業を成長させているのは、さすがはやり手の経営者である。しかし、日本で新しい駐車場ビジネスを大成功させた経営者に、タイに進出して間もなく方向転換を迫るほどに変化が激しいとも言える。

 その急激な変化をもたらしているのが、中国と日本なのである。中国の経済成長が鈍化し、日中関係の悪化で日本企業の脱中国が進む。世界第2位と第3位の経済大国が少し動けば、経済規模の小さなASEANに大きな影響をもたらす。

 安倍晋三首相は最初の外遊先としてASEANの3カ国を回る予定だという。一方で中国は尖閣諸島に戦闘機まで飛来させ始めた。日中とも新政権に移行する2013年だが、関係修復には相当な時間がかかりそうである。

 2013年、ASEANの経済成長にはさらに拍車がかかるのだろう。