自民党安倍政権が上々のスタートを切ったように思える。株価は上昇し、円安傾向も続いている。閣僚の顔ぶれを見ても、安定感を感じる。党役員の布陣も良い。バランス感覚に優れ、外交にも造詣の深い高村正彦副総裁、論理的に物事を考え、喋れる石破茂幹事長、それに高市早苗政調会長、野田聖子総務会長と2人の女性を登用したのも良い。

 このなかで何度か酒を酌み交わし、個人的に知っているのは野田聖子氏だけだが、彼女はまず他人の悪口を言ったことがない。民主党と政権交代した際も、「いまさら民主党の批判をしても仕方がない。政権を奪われた自民党自身の反省こそが大事だ」と語っていた。負け犬の遠吠えよりも、みずからの在り方を見つめ直すという姿勢は、政治家として大事なことだ。彼女なら、むずかしい党内のまとめ役も、その人柄でやりこなしていくことだろう。

石破氏の厳しさは大事

 石破幹事長が新人議員に対し、年末年始の「行動計画表」を提出させ、それをチェックすることを厳命したことが話題を呼んだ。新聞各紙は、無派閥の石破氏が新人教育の主体を派閥から党本部に移すことで、幹事長としての求心力を強めようという狙いがある、などといういつもの浅薄な「裏読み」記事を報じているが、私はまったく違う見方をしている。

 自民党が野に下ったのは、誰の責任でもない、自民党自身の責任であった。政治などまともに考えたこともないような小泉チルドレンの大量当選、事務所費問題などの相次ぐスキャンダル、不安定雇用と失業の増大、消えた年金記録など、さまざまな失政が重なったためだ。

 そのために民主党が上手くやれるかどうか不安を感じながらも、有権者は民主党を選んだ。今回の選挙でも議席は飛躍的に増えたが、得票数が増えたわけではない。石破氏は、この現実を直視している。この厳しさ、真剣さは今の自民党には、何よりも必要なことだ。

目線を下げよ

 6年前の第1次安倍政権の時は、絶大な人気を誇った小泉純一郎首相の後継ということもあり、あまりにも力みかえっていたと思う。例えば「美しい国、日本。」というスローガンだ。悪い言葉ではない。だが当時、大変違和感があった。

 最近、その違和感の原因が分かった気がする。「美しい国」という表現は、一種の理想社会を目指す論理だからだ。現実には、美しいだけの国などというものは存在するわけがない。美しさの裏には、醜さもあるものだ。表があれば、裏もある。それが人間社会である。やはり地に足が着いていないスローガンだったのだ。

 「日本を、取り戻す。」というスローガンにも、安倍晋三首相の思いが込められているのであろうが、同じ臭いを感じてしまう。政治家である以上、理想を持つのはまったく悪いことではない。だが同時に政治家には、リアリティーがなければならない。