物理学者の間では、いくつか「冗談の単位」というものが知られています。普通、単位と言えば、1メートルとか1キログラムといったように、ものの量を示しますね。1ワットとか1ヘルツなども、元来は人の名前から名づけられた単位で、1ユカワなんていう単位も実は存在しています。
ちなみに1ユカワは10のマイナス15乗メートルという極微の距離を表すもので、現在では1フェムトメートルと呼ばれています。同じ長さを1フェルミと呼ぶ人もありましたが、エンリコ・フェルミもヒデキ・ユカワも、ともにこの距離が関連する物理学で大きな業績を残した科学者です。
1ボルト、1アンペア、1オーム・・・電気に関わる単位はほとんどすべて、その研究開発に関わった人名がつけられています。しかし、多くの場合、つけられた元の本人はそんなこととは露知らないわけです(たいていは没後に命名されます:ユカワは生前でしたが・・・)。
ちょっと考えると本人としては微妙かもしれませんね。2サトウと3ワタナベを掛けると6スズキ、なんて、ちょっとコミカルです。
でも、大半の単位はまともな内容を語るものです。しかし物理屋というのは変な種族で、何でもギャグにしなければ気がすまない人もいる。そこでヘンテコリンな単位を「創案」する、いたずら好きな学生なども出てくるわけです。そんな単位の1つをご紹介しましょう。
1バーディーンという単位
で、冗談単位のお話です。1バーディーンという単位が、ごく一部の物性物理学者の間だけかもしれませんが、知られています。
1バーディーンは100エサキに相当する、のだそうで、エサキが100集まるとバーディーンが1つになる。
エサキは江崎玲於奈さんを示します。バーディーンも、ジョン・バーディーン(1908~1991)という、かなり大物級の物理学者の名にちなむもので、これから数回このバーディーンさんとご一緒していこうというので、その紹介から始めています。
この「1バーディーン」という単位は「学会発表で話をして、何を言ってるのかさっぱり分からない」尺度を表す、ということになっています。
敬意をもって記しますが、江崎玲於奈さんのお話は、日本語で聞いてもよく分からないことが少なくありません。さらに英語での江崎さんの講演は、こういうと何ですが、何と言うか、相当訳が分からないと言うか正体不明です(失礼!)。
英語としての発音もよく分からないうえに、話している内容も分かりにくく、かなり横綱級に訳が分からない名講演をなさいます。
これは、中身の価値とぜんぜん関係ありませんので誤解のないように。1990年でしたか、慶応義塾大学理工学部に、やはり超大物級の物性理論家フィリップ・W・アンダーソン(1977年ノーベル物理学賞受賞者)さんがやって来て、何かを話しました。
しかし、正直言って本当に分かりづらかった。
と言うか、私に才能がないだけなのですが、はっきり言って全く正体不明で、分かる人にしか分からない。スピングラスだとか、コンプレックス・システムだとか言うのですが、さっぱりでした。