将来の原発比率をめぐる「国民的議論」の結果を分析する政府の専門家会合が8月28日に開かれ、「少なくとも過半の国民は原発に依存しない社会の実現を望んでいる」と結論した。
古川元久国家戦略相は「原発をなくしていきたいという思いの方が過半を占めている」とコメントしたが、余命いくばくもない民主党政権が20年後の原発比率を決めても意味がない。
同じように消費税率を「国民的議論」で決めたら、大多数が税率ゼロを選ぶだろう。世論調査で政策が決まるなら、国会はいらない。それより緊急の問題は、福島第一原発事故で避難した16万人の被災者が、1年半近く経っても帰宅できないことだ。
除染という無意味で巨大な公共事業
政府は原発事故の被災地を、年間線量を基準にして次の3つに再編する方針を地元に示している。
・50ミリシーベルト超:立入禁止として居住を認めない帰還困難区域
・20~50ミリシーベルト:帰宅や通過を認める居住制限区域
・20ミリシーベルト以下:除染して早期帰宅させる避難指示解除準備区域
しかし地元が同意しないため、再編は進まない。福島県の双葉町は、町の全域を帰還困難区域に指定するよう国に求めた。今さら帰宅しても、農地は使い物にならないし仕事もない。それより帰還困難区域に指定されれば、家屋や土地が「全損」と評価されて賠償を受けることができるからだ。
これは被災者の気持ちとしては分かるが、こんな要求を認めたら、被災地の大部分が廃墟になり、莫大な賠償が発生する。この賠償は東京電力が行うことになっているが、東電の経営は破綻しているので、結局は国民負担になる。
このように要求がエスカレートする原因は、国の方針が混乱しているからだ。政府は年間20ミリ以下の避難指示を解除するという一方で、帰宅のための除染は1ミリ以下を目標にする。他方で5ミリ以上の地域の除染には補助金を出すが、それ以下は原則として補助しない。