米国のアジア戦略が、中国の軍拡によって戦後、最大の変革を迫られてきたことを前回の報告で伝えた。米国のアジアでの同盟関係も大きく侵食されてきたのだ。では、この危機に米国はどう対応するのか。そしてわが日本はどうなのか。
オバマ政権も、アジアの軍事情勢の変容への対策はすでに一応は打ち出した。オバマ大統領が2012年1月に国防総省で演説して、アジア重視と特徴づける新政策を公式に発表したのだ。
ごく簡単に言えば、イラクやアフガニスタンから撤退させた兵力をアジアに向けるという趣旨だった。だが、その理由となるはずの「中国」という国名をまったく挙げなかった。このへんがオバマ政権らしいところだろう。
国防総省が描くのは戦争シナリオそのもの
ただしオバマ政権も国防総省段階では、2011年11月からもっと具体的なアジア新戦略を描き出していた。「エア・シー・バトル(空・海戦闘)」と呼ばれる新たな戦略だった。
明らかに中国の軍拡への対応である。だから新たな対中戦略とも呼べるだろう。国防総省にはそのための特別部局も新設された。
その新戦略は以下の内容を盛り込んでいた。
(1)中国側の新型対艦ミサイルを破壊するための空・海軍共同作戦
(2)中国側「接近阻止」部隊への空・海両軍共同のサイバー攻撃
(3)有人無人の新鋭長距離爆撃機の開発
(4)潜水艦とステルス機の合同作戦
(5)海・空軍と海兵隊合同による中国領内の拠点攻撃
(6)空軍による米海軍基地や艦艇の防御強化、などである。
文字通りにみれば、戦争シナリオそのものだった。
国防総省高官たちは、当初は「中国」という国名を挙げないまま解説したが、報道陣の「この戦略の対象となる国は中国以外にあるのか」という質問に、高官の1人は「ない」ことを認めた。他の高官は「この新戦略は、中国の新鋭攻撃用兵器が南シナ海や黄海の航行の自由を脅かすことへの懸念から生まれ、米側が単に中国のそうした動きを座視はしないという意思表示だ」とも述べた。