食の安全性を専門家に訊くシリーズの第2弾として、「遺伝子組み換え食品」をテーマに挙げている。
前篇では、北海道大学大学院農学研究院の松井博和教授に、遺伝子組み換え食品の歴史や現状を聞いた。遺伝子組み換え作物はかつて工業用途がメインだったが、最近では、遺伝子組み換え作物を原料とする醤油などの調味料もかなり流通しているようだ。
遺伝子組み換え作物を原料とする調味料には、現在のところ表示義務はない。多くの人びとは、知らずに摂取しているのが現状だろう。
2011年12月には米国産遺伝子組み換えパパイヤも解禁され(表示義務あり)、遺伝子組み換え作物をそのまま食べる機会も出始めた。これらの加工食品や食品を体に摂り入れても、問題はないのだろうか。
後篇では、引き続き松井教授に、遺伝子組み換え食品に対する安全性と危険性をどのように捉えたらよいのかを聞く。
さらに、主に北海道内で推進派と反対派の“対話”を促してきた松井教授に、遺伝子組み換え食品に対する人びとの根強い不信感はどこから生まれてくるのか、その社会的背景についても聞いた。
遺伝子組み換え作物が原料の醤油は安全?
──前篇では、遺伝子組み換えダイズを原料にした醤油などを、私たちはすでに日常的に摂取しているだろうとのことでした。人体に悪影響を及ぼすなどの問題はないのでしょうか。
松井博和教授(以下、敬称略) 醤油は、ダイズなどの原料を発酵させて作られる調味料です。原料に遺伝子組み換え作物が入っていたとしても、発酵段階ではすでにばらばらになっているのです。
醤油と同様、遺伝子組み換えトウモロコシを原料とする液糖をジュースに入れることがあります。トウモロコシのでんぷんを、酵素で分解して液にするわけです。専門家として言えることは、間違いなくその液糖の中に組み換え遺伝子は入っていないということです。
これらの醤油や液糖は、例えるなら再生紙のティッシュペーパーのようなもの。私たちはティッシュペーパーで口を拭きますが、再利用前は古新聞でインキが付いていたり、汚いものを包んでいたりしたものかもしれません。しかし、そのティッシュを「もともとはインキが付いていたから」という理由で口を拭くのに使わないことはありません。