口蹄疫のニュースがテレビや新聞を賑わしている。しかし、読者の皆さんは口蹄疫を報じるニュースの中で必ず出てくる次のフレーズを聞いて安心していないだろうか。

人への感染はない、その安心が感染広げる

英で口蹄疫発生、首相が緊急会議を招集

2007年英国で発生した口蹄疫で、処分した牛を運ぶトラックを消毒する作業員〔AFPBB News

 「口蹄疫は人には感染しません」「口蹄疫に感染した牛の肉を食べても健康に害はありません」

 メディアはまず国民の健康への安全と風評被害の防止を第一に考えているので、こうした報道が必ずなされるのは仕方がない。しかし、実はこの「安心」こそ口蹄疫にとっては最も厄介な問題なのだ。

 胸に手を当てて考えてほしい。「口蹄疫は牛海綿状脳症(BSE)と違って人間に感染しないのだから、大した問題ではないんだな」と思っている方がほとんどではないだろうか。

 そう思った瞬間、人間の常として、問題は他人事になり被害は対岸の火事と化す。あとは専門家に任せておけばいいと考える。しかし、他人事と思ってしまった自分が口蹄疫ウイルスの運び屋「Carrier=キャリアー」になる危険性が高いことまでは、考えが及ばないだろう。

 口蹄疫ウイルスは家畜から家畜へと感染していくが、家畜同士が直接に接しないところでは人間が伝染の仲立ちをする。口蹄疫にかかった家畜のウイルスが人間の衣服や皮膚につき、それが遠くまで運ばれて別の家畜に感染するからだ。

愚かにもお付きとメディアを連れて現地視察

 ウイルスが人間に甚大な被害を及ぼす場合には、人間は感染した家畜に近づかないのでキャリアーとなる可能性は小さい。しかし、自分には無害となると平気で家畜に近づき、自分では気づかないうちにキャリアーとなっている。

 今回、宮崎県で口蹄疫が発生した直後、政府や獣医、専門家たちがどんな対応を取ったのかを振り返るだけでもそれが分かる。現地視察と称して、農林水産大臣をはじめ政府の高官たちが現地を視察した。また、海外の汚染地域にまで視察に赴いた人たちがいる。そのお付きの人たちやマスコミを含めると非常に多くの人たちが、無邪気に汚染地域に足を踏み入れているのだ。

 自分に甚大な被害が予想されるウイルスだったら、果たして視察に行ったのだろうか。現地の慰安も含めてぜひ行きたいと言っても、周りが止めたに違いない。感染が広がる危険性が高まるからだ。

 しかし、家畜だけの被害ということで、政治的パーフォーマンスを発揮できるチャンスと考えたのかは知らないが、大挙して汚染地域を視察することになった。