Summary:福島の原発事故は、世界各国で原子力発電の是非をめぐる論争を巻き起こした。だがエネルギーミックスから原子力を排除するという急進的な措置をとることが可能な国は限られている。急速な成長を遂げる新興経済国と先進国はともに、エネルギー安全保障・社会的公平性・環境への影響という3つの難題に対応しなければならない。そしてこれは、最善のエネルギーミックスを模索する日本も例外なく直面する問題だ
世界エネルギー会議 事務局長
クリストフ・フライ
世界各国の政府は、拡大を続けるエネルギー需要に対応するためのベストな方法を求めて模索を続けている。先進国が既存インフラのアップグレードや入替えの方法を検討する一方、発展途上国は過去に類を見ない経済成長がもたらすエネルギー需要拡大への対応に迫られている。
そしてこういった変化は、気候変動への懸念や一部地域での深刻な経済問題(それによる資金調達メカニズムへのマイナス影響も含む)、物価の不安定化につながる政情不安の深刻化といった様々な背景の下に生じている。
2011年3月11日、日本の観測史上で最大級の地震が東北地方を襲い、沿岸部で巨大な津波を引き起こした。 日本そして世界各国の政府関係者は、 その後福島第一原子力発電所で発生したメルトダウンにより、エネルギーミックスの中で原子力が果たす役割の再考を迫られた。
福島の事故がどのような影響をもたらしたのか、現段階でその全容を評価することはできない。だが世界各国の政府は、拡大を続けるエネルギー需要に対応すべく計画の見直しをはじめている。
“フクシマ”の余波
福島の事故発生以前、日本のエネルギーミックスに原子力発電が占める割合は約30%で、ガス・石炭は約50%を占めていた。本稿の執筆時点(2012年2月22日)で、合計54基の商用原子炉のうち稼働しているものはわずか2基にすぎない*1。これは、既存原発の発電能力が72%減少したのに匹敵する数字だ。
この不足を補うために、日本は他の電力源に対する追加投資を余儀なくされている。日本エネルギー経済研究所と財務省によると、2011年をつうじた日本の液化天然ガス(LNG)輸入量は2010年と比べて12%、2012年1月には前年比で28.2%増加した 。
また国際エネルギー機関(IEA)が今年2月に発表した“Oil Market Report”(石油市場レポート)によると、日本の電力セクターの石油需要は2011年に日量約28万バレル増加した。2012年の増加分は、日量約32万バレルに達する見通しだという。経済産業省は、ガスや石油による火力発電で原子力発電の減少分を埋め合わせるために3兆円以上の追加コストが必要になると試算している。
原発と石炭発電所がベースロード(最低負荷)で稼働を続け、LNGや石油を使った火力発電所がピークロード(最大負荷)あるいは中間負荷で運転した場合、発電能力の不足分を補うためにかかるコストはさらに増大する。そして消費者はコストの一部を負担することになるだろう。経済産業省の推計によると、原発の稼働停止によって日本の電気料金は20%上昇し、ピーク時間には10%程度の電力不足が発生するという。
*1=東京電力は3月に新潟県にある柏崎刈羽原子力発電所6号機の発電を定期検査のために停止、5月5日には北海道電力の泊原発3号機も停止し、日本で稼働している原発はゼロになった