戦車についての著作は多数発刊されており、専門的な内容はそれらの文献で求めていただくこととして、本稿では戦車についてあまり馴染みのない方を対象として解説することを主眼に展開してみたいと思う。

 戦車は古代から使われており、お馴染みの映画「ベンハー」で主演チャールトン・ヘストンが馬に牽引された戦車で死闘を繰り広げるシーンを思い浮かべる方もあると思う。

 しかし本稿では、第1次世界大戦中に開発され、同大戦で初めて戦場に出現した、動力を持って鉄の甲を纏い、火砲を装備した近代戦車についての解説をする。

戦車とは何か

米国アバディーン戦車博物館に展示された戦車

 戦車のはっきりとした定義はないが、一般的には下記の特徴を有している兵器の総称である。

●強力な火砲を搭載している。
●重い車体をも路外不整地走行に適応させる無限軌道(キャタピラ)を装着している。
●敵の砲爆撃から身を守る強力な鉄(最近は特殊な装甲を持っている)の甲を纏っている。

 これらがこれまで戦車の3要素(火力・機動力・防護力)として、その性能評価の基準とされてきた。

 しかし、最近は後で詳しく述べるように、通信・コンピューターの発達で人工知能(AI: Artificial Intelligence)力を駆使することによって、戦車の性能は従来に比して格段に向上している。

 この3要素(最近はプラスAI)を有した戦車はMBT(Main Battle Tank)として陸上戦力の骨幹、ひいては国の運命をも左右する最重要兵器として、世界の主要各国はその開発近代化に心血を注ぎ、莫大な予算を投入してきた。

戦車に関する欧州戦場における簡単な歴史

 詳細な近代戦車の歴史はほかの文献に任せるとして、ここでは戦車を知るうえで最小限必要と思われる出来事を簡単に記述する。

●戦場に戦車が出現

戦場に初めて出現した英国Mk.I戦車

 戦車が最初に戦場に出現したのは1916年9月15日、第1次世界大戦の西部戦線ソンム会戦中盤で、英国のMk.I(57ミリ砲2門、機関銃4門)である。

 第1次世界大戦の西部戦線では塹壕戦が戦線を膠着状態とし、これに新兵器の戦車(当時は新兵器の実体を隠すため、当時の英国海軍大臣ウィンストン・チャーチルが“タンク”と名づけ称したのが、後々戦車のことをTankと呼ぶことになった始まりである)を50両投入した。