ディーゼルエンジンと言えば、トラックやバスで見かけるように「ガタガタッ」と揺れながら始動して、「ガラガラガラ・・・」と硬い音を響かせながらアイドリングする。これが日本に住む人々のほとんどが抱いているイメージだろうと思う。
ところがマツダの新型車「CX-5」のディーゼルエンジン搭載モデルは、ステアリングホイールの左側にあるスタート/ストップボタンを押し込むと簡単に「火が入り」、そのまま軽やかにアイドリングを始める。ガソリンエンジンの音、振動とほとんど変わらない。
欧州のメーカーが送り出している最新鋭ディーゼルエンジンを積む乗用車たちも、クルマの内外で聞くエンジンの音は低くなっているが、あれは遮音材でエンジンを包むようにしている効果がかなりある。それらとはちょっと違う。エンジンそのものが発する燃焼の音そのものが抑えられているのだ。
燃焼音は柔らかいが、「筋肉」が感じられない
このクルマに積まれているのは、マツダが新たに開発、量産化した「SKYACTIV-D」シリーズの第1作、4気筒2.2リットルのディーゼルエンジン。
その技術的キーポイントの1つは、これまで17~20ぐらいが常識だった圧縮比(シリンダーの中でピストンが最下位置=下死点にある時の容積と、最上点=上死点に達した時の容積の比)を「14」まで落としたこと。
ディーゼルエンジンは、吸入した空気をギューッと押し縮め、それによって温度も上昇(断熱圧縮)したところに燃料を噴き込み、その微小な液滴が気化したところから一気に燃焼する。ここで燃焼による圧力が急激に高まり、エンジンを内部から「叩く」ので、あの尖った音が響くのである。
その圧縮を控えて、より大きな空間の中で燃焼させるので、燃焼による圧力ピークの波形が尖らず、柔らかい燃焼音になる。「なるほどね・・・」と、CX-5ディーゼルのアイドリングの音と振動を初体験する中で考えた。私流のクルマの「味見」はこんなふうに始まり、進んでゆくのである。
付け加えておくなら、ディーゼルエンジンの圧縮比をここまで下げると、外気温が低い時の始動と暖まりが技術的な障壁として現れる。つまり寒冷な空気を吸い込んでギュッと押し縮めても、そこに噴霧された燃料がパッと気化できる温度にまで上がらない、という状況が起こりうる。
そこでまず燃焼室の中に顔を出している耐熱セラミック製のグロープラグという部品の先端が、エンジン始動時には電熱で瞬時に赤熱化して「火種」になるようにしている。これは今日のディーゼルエンジンの定石。