例えるならば、タイヤ以外はドアもボンネットもすべて1枚の柔軟な強化スチールでできている車といった次元である(筆者の妄想)。この段階では誰も真剣にプロジェクトを進めない。だが製造できるかもしれないとの思いもある。
パーカー氏は「フライニットはまるで第2の皮膚のように機能します」と会見で自慢してみせた。靴下のような皮膚感覚を体感できるらしい。実際のシューズは今年7月、日米で同時発売される予定で、将来は顧客の足型に合わせて製造されていくかもしれない。
ここから導き出されることは、衰退の一途にあると思われてきた米製造業は一部で停滞が見られるものの、ナイキやアップル、ゼネラル・エレクトリック(GE)など、確実に躍進しているという事実だ。そして革新的と呼ばれる新商品開発の裏には企業トップの舵取りと先見性が必ずある。
ソニーは衰退するのみ、なのか
一方の日本企業はどうか。斬新な商品を次々に市場に送り出す企業もある。しかし2月に、ソニーの新社長のお披露目会見で残念なシーンを見た。
筆者は長年米政財界を追ってきて、衰退していく企業はまずトップが守勢に回り、真に斬新なプロジェクトに手をつけられなくなる共通点を見ている。
新CEOの平井一夫氏は「テレビ事業の立て直し」を口にした。これこそがソニーの必須事業であるかのように。外野からの発言だが、もうテレビ受像機に力を入れている時代ではない。受像機をより薄く、画面をより鮮明にといったレベルの話では韓国企業には勝てない。
会見を聞きながら、「なぜかつてのテレビやコンピューターの発明、電子レンジの開発といったレベルの世界的ブレークスルーを目指さないのか」と感じた。
ナイキの「フライニット」は、少なくともシューズ製造を別次元に押し上げた。それよりもさらに高い次元の発明を目指すと、なぜ言えないのか。
もちろん5年かかってもできないかもしれない。新商品の研究開発はそれほどの困難が伴う。だがCEOがまず熱を見せないと社員は動かない。ソニーの不振はそうした開拓精神の欠如と密接に関連していないのか。
明言すれば、今さら新型のスマートフォンや新型テレビなどいらないのだ。世界中の人が驚嘆する新分野の商品の登場を願うのである。それは企業体として、トップがどう動くかにかかっている。アップルのスティーブ・ジョブズがそうだったように――。