一見、昔なつかしい昭和の学園ドラマを思わせるタイトルだ――熱血先生と悩みを乗り越えて成長していく生徒たち・・・。しかし、『つらいから青春だ』の内容は、世界中で社会が不安定に揺れ動いている現在の若者に向けたメッセージである。
著者のキム・ナンド氏はソウル大学きっての人気教授だ。その物腰はとても穏やかで、いわゆる「熱血」先生ではない。しかし、未来への不安に思い悩む学生たちを励ましたいという強い思いが、この本には詰まっている。
韓国経済が世界市場で躍進する一方で、世代間格差と激しい競争社会に翻弄される韓国の若い世代。その厳しい実情についてキム氏に聞いた。
世代間格差、競争社会のあおりで不利な状況に置かれる韓国の若者
―― 『つらいから青春だ』は韓国でのミリオンセラー最速記録を塗り替え、170万部を突破するベストセラーとなっているそうですね。読者にそれだけ支持された理由は何でしょう。
キム 最初は驚くと同時に戸惑いました。というのも、出版社は当初、5万部は売れるだろうと話していて、それでも大きな数字だと思っていたくらいでしたから。
売れた大きな理由の一つは、韓国の若者たちがいま仕事を得る機会がとても少なくなっているという社会問題にあると思います。韓国では若者の雇用環境が非常に厳しくなっているのです。
―― 日本に比べ韓国経済は勢いがあると思うのですが、韓国でも若者の就職は難しいのですか。
キム そうです。その背景としては、大きく見ると1997年のアジア通貨危機があります。アジア通貨危機以降に新自由主義の考え方が広まり、経済競争がとても激しくなりました。
その過程で韓国の若者たちは、就職において不利な状況に置かれるようになったのです。
新自由主義とは、自由競争と市場至上主義のことで、韓国には絶えず競争し続けなければならない「無限競争」という言葉もあります。