独立系運用会社・AIJ投資顧問が顧客からの受託資産約2000億円を消失させたことが発覚してから約1カ月が経過した。

 AIJの企業年金基金への積極的な営業活動のほか、AIJに運用を委託していた年金基金に厚生労働省から多数の役人が天下っていたことが判明するなど、波紋は広がるばかりだ。老後資金の喪失懸念に直面する企業人が増加するなど、同社の“犯罪行為”は社会問題化が必至だ。

 今回は、同社が客寄せに積極活用し、結果的に顧客資産を“溶かす”要因となった危うい運用手法の一端を明らかにする。

「オルタナティブ」の呪縛

 「(AIJは)“天才的”な運用会社として、ある意味有名だった・・・」(外資系運用会社のファンドマネジャー)

 AIJ問題が発覚した直後、筆者は旧知のファンドマネジャーと連絡を取った。すると、件のベテランマネジャーは吐き捨てるように言い放った。

 同氏は株式運用のプロであり、バイサイドのアナリストでもある。業務の中では、足繁く企業訪問を行う。もちろん、全国、あるいはアジア各地の生産現場を直に取材し、当該企業の株式が売りか買いか見極める。

 割安、あるいは今まで誰も注目してこなかった企業や有望な製品を見出し、株式を買う。企業の業績アップとともに株価も上昇、この値上がり益を、顧客である企業年金の配当に回す典型的な「ロングオンリー」の投資家でもある。

 企業年金を受託する投資顧問には、このマネジャーのように株式で運用するファンドのほか、世界各国の国債、優良企業の社債で運用するファンドも存在する。また、株式と債券を併せ持つスタイルもある。

 だが、世界的な超低金利政策の長期化のほか、金融危機に伴う株式・債券市況の悪化とともに、こうしたスタイルのファンド(投資顧問)の運用成績は悪化の一途をたどった。

 こうした向きと一線を画す形で登場したのが、AIJのようなオルタナティブ投資をウリにした新しいタイプのファンド(同)だ。

 具体的には、将来時点の金融商品をやりとりする先物、売り買いの権利そのものを売買するオプションのほか、未公開株投資、不動産投資、テーラーメード型の私募債投資などを複合的に組み合わせ、「株式や債券市況の値動きに左右されず、安定的かつ高収益を計上する」ことがオルタナティブ運用の特徴であり、最大のウリだ。「従来型の代替」という位置づけこそが「オルタナティブ」という名前なのだ。