MRIC by 医療ガバナンス学会

 高齢社会の宿痾とでもいうべき心臓疾患で外科手術を余儀なくされる患者は、日本では年間ざっと6万人にのぼる。これらの患者の手術を請け負う病院・施設は、2004年当時、813施設だった(厚生労働省統計)が、その後6年間で100施設以上が新たに開業。

 2010年現在、942が心臓血管手術の看板を掲げて乱立している(同省統計)。単純に計算をすると、病院施設1カ所当たりの手術数は年間63件ということになる。

 じつは乱立する病院に手を焼いた国は2002年、「冠動脈バイパス手術+人工心肺を使用する手術」が年間100例に満たない施設では、手術料を30%減額するという施設基準を設定したが、そんな締め付けもなんのその、心臓手術の看板を掲げた病院がつぎつぎと新たに開業し続けている。

 手術料を3割カットされても心臓手術病院が増え続けるのはなぜか。

 考えられる原因は、施設が貧弱であろうと専門医が未熟であろうと、いま心臓疾患の患者は絶えることがなく儲かるからだ。網を張って待っていれば無知な患者が迷い込んでくる可能性が高い。

 医療問題や業界事情に疎い無邪気な心臓病“適齢期”の方々、団塊世代という700万人のカモの大群が眼の前をひらひらと飛んでいる。この“マーケット”でひと稼ぎするビジネスチャンスを見逃す手はないという心理が働いているからだとしか思えない。

 2004年、日本胸部外科学会など心臓手術に関連する3つの学会が「心臓血管外科専門医資格認定機構」を発足させ、専門医の資格を認定するとともに、施設基準を決めている。この基準は「症例の多いところほど、手術成績が良好である」という欧米の考え方を根拠にしている。