半導体業界には、様々なヒエラルキーがある。シリコンウエハ上に集積回路を形成する「前工程」においては、4番エースが「リソグラフィ」技術、3番サードが「ドライエッチング」技術で、9番ライト(または補欠)が「洗浄」技術と思われている。現在、それは間違っており、最も重要で最も技術の難度が高いのは洗浄技術であることを以前の記事で紹介した(「日本半導体を復活させる『4番でエース』技術とは」)。

 ところが、いまだにリソグラフィ技術がヒエラルキーの一番上にいると勘違いしている業界人や技術者があきれるほど多い。

 確かに装置の価格は最も高い。例えば「ArF液浸」と呼ばれる最先端露光装置は1台50億円を超える。これは、他の装置より1ケタ以上高い。次世代候補の「EUV」リソグラフィ装置においては、100億円を超えると言われている(製品化の目途も経っていないのに)。

 また、プラズマを使うドライエッチング技術や成膜技術、液体を使うCMP(化学機械研磨)技術や洗浄技術では、プラズマや液体の挙動が複雑なためシミュレーションが困難であり、やってみなければ分からない農業のような性格がある。

 それに対して、リソグラフィ技術は、光学で確立されている法則「レイリーの式:解像度R=k1×λ/NA」ですべてが決まる。

 このように装置が超高価で、物理学の(美しい)法則に従ってシミュレーションできることから、リソグラフィ技術者は、「自分たちの技術は、農業みたいなドライエッチングや洗浄と比べると、格段に高級だ」と思い込んでいる(本当は、超金食い虫で、たった1個の式で規定される極めて単純な技術に過ぎないのに)。

視野が狭く思い上がっているリソグラフィ技術者

 さらに、リソグラフィ技術者には、「自分たちがパターンを形成しなければ、そのあと何もできない」という思い上がりがある。確かに、リソグラフィ技術により、マスクの回路パターンを感光性レジストに転写しなければ、その後のドライエッチングなどができない。

半導体デバイスと前工程の要素技術

 しかし、リソグラフィ技術だけでは、微細加工は完結しない。右の図に示したように、まず成膜があり、次にリソグラフィ、その後ドライエッチング、アッシング、洗浄、検査がなされて、初めて微細加工が完結する。すなわち、リソグラフィは前工程の一要素技術に過ぎない。

 にもかかわらず、リソグラフィ技術者は自分たちが上位にいると思い込んでいる。その中には「リソグラフィができたら、あとは自動的に(何の苦労もいらずに)微細加工が完了し、自動的にトランジスタが形成され、自動的に半導体デバイスができてしまう」と思っている視野狭窄的なとんでもない技術者がいるのである。