日本ビジネスプレスは12月10日、経済メディアサイト「JBpress」の開設を記念し、新丸の内ビル・東京21cクラブで特別セミナーを開いた。日本格付研究所の内海孚社長(元大蔵財務官)が「2009年経済展望―金融危機後の国際金融を占う」と題して講演。プラザ合意や中南米危機、日米構造協議(SII)など国際金融界の舞台裏で活躍した内海氏は、サブプライム問題に端を発する今回の危機を読み解くキーワードとして「逆転・逆流」を挙げた。世界経済が逆回転を始めたため、米欧のほか日本もリセッション(景気後退)に陥ると指摘。元「通貨マフィア」としては、一時的に1ドル=90円を突破する円高の可能性に備えるべきだと警告を発した。また、中国経済の減速は必至だと強調し、「(社会不安深刻化の限界とされる)7%成長の維持さえ難しい」と予測している。以下、講演の要旨を掲載する(敬称略)
投資銀行消滅、ファンド2割退場
米国の個人消費が国内総生産(GDP)に占める比率は、1960年代ぐらいから90年代までは、伝統的に大体60%台前半に収まっていた。2002年以降、なぜそれが70%台に上昇したのか。不動産価格が上がる一方で金利が下がり、安い金利の住宅ローンに切り替えられたからだ。それまで自分の住宅の価格が30万ドルだったのが40万ドルになると、10万ドル余計にキャッシュフローが入り、この分が消費に回った。
今、それが強烈な勢いで逆転している。いわゆる返済だけではなく、差し押さえられて競売されるのも一種の返済となる。もし個人消費の対GDP比率が伝統的な60%台に戻るプロセスに入ったとすれば、これには相当時間がかかる。ただ、この調整ができると、米国の対外ポジションは強くなる。
その次の逆転現象は、米国から新興市場や日本、欧州に対して直接投資、あるいは株式など証券投資という形で流れていたカネだ。今や米国の企業もファンドも手元にカネがない状態になり、猛烈に過去の投資を回収している。だから新興国や途上国は難しい。韓国が典型的だ。欧州からも、ものすごい勢いで回収しているから、ドルが強い。ドルは円以外のどの通貨よりも非常に強い。
資源・エネルギー価格も逆転。1次産品の先物指数で言うと(ピークから)66%下がり、3分の1になってしまった。原油価格が最高水準から今や72%下がり、小麦・トウモロコシもだいたい3分の1ぐらいだ。
それから、米国のインベストメントバンク(投資銀行)の総資産は1970年代5%ぐらいだったのに、今年初めにはなんと25%まで膨れ上がっていた。それが今やほとんどなくなってしまい、潰れるかあるいは「銀行」として生き残っているか。1万ぐらいあったヘッジファンドも既に2割減ってしまった。
小泉純一郎内閣、その元にいた竹中平蔵さんが推進していた小さい政府。Deregulation、あるいは規制緩和と呼んでいいんだけど、やはりこれが問題となり、今や世の中はReregulation、すなわち再規制へ動いている。米欧では猛烈な勢いで主要銀行が国有化されており、自動車のビッグ3も(実質的には)国有化だろう。それから景気刺激策が行われ、小さい政府から大きな政府へ逆流している。