国内最大手旅行会社が12月4日に発表した「年末年始(2008年12月23日~2009年1月3日)の旅行動向」によると、この年末年始の海外旅行人数は58万人(前年比▲4.6%)と推計されている。前年比はマイナスだが、円高が追い風になって、韓国・台湾・グアムなどの近隣地域や欧州が人気だという。
一方、国内旅行人数は2932万人(同+0.1%)。わずかながら2年ぶりの前年比プラスになると推計されているが、プラス幅はごくわずかであり、発表資料には「前年並み」「ガソリン代の値下がりで、車利用の帰省客や温泉宿泊客に期待」と書かれている。
海外・国内を合計した総旅行人数(延べ)は、2990万人(前年比▲0.0%)と推計された。
筆者は、警察庁が毎年発表しているゴールデンウィーク期間中の行楽地の人出と景気の関係について、すでに何度かコメントしている(ご興味がおありの方は拙著『チーズの値段から未来が見える』祥伝社刊ご参照)。GWの人出の場合、過去最多は1991年の6981万人で、この記録はその後17年経っても破られていない。その理由として筆者は、湾岸戦争が勃発したことで91年は海外旅行の自粛ムードが広がって国内旅行回帰が強まったという事情に加え、より中長期的な問題点として、人口減少・少子高齢化社会の到来を指摘した。
今回は、年末年始の旅行人数から、景気との関係を見出そうと試みた。結論から言うと、国内旅行人数の前年比増減が、景気の拡張・後退の動きと連動しており、国内景気を見ていく上でのインディケーターになり得る。
海外旅行は、すでに触れたような地政学的リスクの問題や、為替相場の円高・円安、原油価格の騰落を背景とする航空運賃・パック旅行代金の上下動など、国内景気そのものとは別の要因に左右されやすい面がある。したがって、海外と国内を合計した総旅行人数についても、国内景気との連動性は薄れがちとなる。
1991年の海外旅行人数急減・国内旅行人数急増、および翌92年に見られた反動を除くため、93年以降について国内旅行人数の前年差を取ると、下図のようになる。マイナスになったのは、93年、98年、99年、2002年、2007年。
これらの年は、景気後退局面と重なるか、あるいは後退局面に近接していた。第11循環の景気後退は1991年3月~93年10月。第12循環の景気後退は97年6月~99年1月。第13循環の景気後退は、2000年11月~2002年1月である。そして、今回の景気後退局面は2007年10-12 月期に始まったとみるのがエコノミストの間ではコンセンサスになっている。1999年と2002 年の場合、年末時点では景気は拡張局面に移行していたので、国内旅行人数は遅行指標ということになるが、家計部門に景気の上下動が波及して消費活動が増減するタイミングは景気循環に遅行するのが通常なので、特に違和感はない。
気になるのが、2008年の国内旅行人数の推計値である。推計された前年差は+1万7000人となっているが、景気後退が深まっており、しかも消費者態度指数が過去最低水準にあることを考えると、実績値では下振れして前年差はマイナスになるものと予想される。
ちなみに、2007年の国内旅行人数の場合、2007年12月6日時点で発表された推計値は2945.0 万人(前年比+0.2%、前年差+5万人)となっていたが、2008年12月4日の公表資料で明らかになった実績値は2930.3 万人(前年比▲0.3%、前年差▲9.7 万人)と、予想比下振れしていた。
この年末年始に帰省される方は、国内旅行人数が増えているか減っているか、ひとつ観察してみてはいかがだろうか。