「2008年の夏の思い出は?」と聞かれて思い出せなくても、慌てる必要はない。物忘れのせいではなく、もしかして、どこにも行かなかったのかもしれない。

 その夏、WTI(米国産標準油種=ウエスト・テキサス・インターミディエート)の価格は1バレルあたり150ドルに迫ろうとしていた。日本国内のレギュラーガソリン販売価格も高騰、8月には全国平均で185円を突破、地域によっては200円近くまで値上がりした。航空機も燃料費の高騰が「サーチャージ」として付加されたので、この年の夏は「不要不急の長距離移動は控えよう」と考える人が多かった。

原油価格の高騰は再来する

 この時の原油価格高騰は、一般的には「行き場を失った投機マネーが大量に流れ込んだ」と説明されている。もちろん、ある面では正しい解説だ。しかし、それだけでは原油高騰がたまたま起こった一過性のものなのか、今後も繰り返し起こり得ることなのかがはっきりしない。

 石油地質学者や地球物理学者のグループ、一部の石油産業関係者は、世界全体での石油供給量は、いずれピークを迎え、その後は減耗期に突入すると警告を発している。

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スポーツカーもハイブリッドの時代。走りとエコを両立すると言うが・・・。(ホンダのハイブリッドスポーツカーCR-Z)〔AFPBB News

 「石油ピーク論」が事実であるとすれば、いずれ世界の石油需要を満たす供給ができなくなり、均衡を取るために再び原油価格は上昇するはずだ。つまり、2008年夏の悪夢は、決して一過性の出来事ではないということになる。

 原油価格の高騰は運輸部門を直撃する。現在、人やモノの移動は、常温で液体である石油の使用を前提に、内燃機関によって動力を得ることで成り立っている。石油価格が高くなれば、当然、燃費にシビアにならざるを得ない。

 最近はプロのドライバーばかりでなく、一般のドライバーの間にも低燃費走行の意識が高まっているし、エコドライブを支援するプログラムが組み込まれたクルマも増えている。

走行はエコ、生産はエコじゃないハイブリッド

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燃費はいいが、製品になるまでに莫大なエネルギーを使用する〔AFPBB News

 そして、なんといっても、注目を集めているのはハイブリッド車だ。2008年夏のガソリン価格高騰は、ハイブリッド車人気に拍車を掛けた。日本自動車販売協会連合会の統計によると、トヨタ自動車の最新ハイブリッド車「新型プリウス」は、2009年5月の発売以来、現在まで、販売台数ランキングのトップをキープし続けている。

 電気とガソリンを使って動力を得るハイブリッド車は、燃費が飛躍的に向上する。運転方法や道路条件によっても異なるが、通常のガソリン車に比べて2倍以上燃費が改善することも珍しくない。お財布に優しいのはもちろんのこと、石油減耗時代に適した車のように考えられる。

 「テクノロジーがエネルギー問題を解決する」──このフレーズは、なんとも耳に心地良い。日本の優秀なエンジニアは、それを実現するために日夜努力を続けている。しかし、石油ピークに起因するエネルギー問題は、そう簡単に解決できるものではない。