前回は、2000年前後から始まった日本半導体の第1次再編がことごとく失敗したことを説明した。また、NECと日立の合弁会社エルピーダメモリ(以下、エルピーダ)をケーススタディーすることにより、経営統合した場合、どのような混乱と摩擦が生じるかを詳述した。これらは、すべて、再編におけるネガティブな教訓であると言えよう。

図1 エルピーダメモリのDRAMシェアの推移(出典:iSuppliのデータなどを基に筆者作成)

 では、ポジティブな教訓はないのか? 1つある。図1に、エルピーダのDRAMシェアの推移を示した。エルピーダのDRAMシェアは、設立後から2年で4分の1に減少した。この直接的原因が2社統合の混乱と摩擦にあったことは、前回に論じた通りである。

 ところが、2002年11月に社長が交代した後、そのシェアは急速に回復に転じた。社長交代前後の時期に、エルピーダには一体何が起きたのか? この現象を解明することにより、経営統合におけるポジティブな教訓が得られると考えられる。

 今回は、社長交代によって設立直後の混乱と摩擦はどうなったのか、その結果、エルピーダがどう変わったのか、について論じてみよう。

エルピーダのV字回復を成し遂げた2つの要因

 先に答えを書いてしまうと、エルピーダのV字回復は、次の2つの要因によってなされたと筆者は考えている。

(1)NECおよび日立出身ではない坂本幸雄社長の技術経営(Management of Technology、MOT)が功を奏した。

(2)NECおよび日立出身者の中で、十数名の三菱電機出身者が混乱や摩擦を解消し、エルピーダが直面していた量産の問題を解決していった。

 この根拠となる2回の調査結果を以下に示す。

社長交代がもたらした変化について技術者にインタビュー

 社長交代から2年が経過した2004年1月、エルピーダの技術者12人を対象に、「社長交代前にはどのような問題があり、社長交代後その問題はどうなったのか」を、1人につき1時間程度、ヒアリングした。

 技術者12人の内訳は、NEC出身者6人、日立出身者6人。また、12人の職種は、インテグレーション技術6人、要素プロセス技術6人であった。

 上記12人は、それぞれ、社長交代前には、(1)経営、(2)組織、(3)オペレーションに大きな問題があったと回答した。ところが、これらの問題は、社長交代後にほとんどすべて解決したと、12人は回答した。つまり、社長交代前後で、エルピーダには、劇的な変化が起きていたのである。

(1)経営の問題

【社長交代前】

 まず、社長交代前は経営のトップマネジメントが問題だったと技術者全員が答えた。「経営のスピードが遅い」「投資と製品戦略に問題がある」「親会社に遠慮しているようだ」等の回答があった。

 次に親会社の干渉が問題だった。「何をするにも承認が必要」「承認には時間がかかる」「口は出すのに資金は出してくれない」等の回答があった。

 さらに、投資資金が調達できなかった。「投資資金は100%親会社に依存していたため、市況悪化に伴い、親会社から投資資金は途絶えてしまった」という回答であった。