またまた欧州でいかにも「中国らしい」事件が起きた。場所は極寒の島国アイスランド。中国の投資企業が300平方キロもの広大な土地を買収しようとしたが、アイスランド政府は安全保障上の理由で申請を却下した。中国側は「西側の中国に対する不当な差別」だと反発している。真相は一体どちらなのだろう。(文中敬称略)

地球温暖化と北極海航路

 ことの発端は本年9月に遡る。中国の大富豪で大手投資企業「中坤集団」の総帥・黄怒波(Huang Nubo)がアイスランド東北部の土地300平方キロの所有権購入を同国政府に申請した。同国内や欧米メディアの一部には「中坤集団の裏に中国政府がいる」として買収自体を疑問視する声もあったらしい。

中国の不動産投資家、アイスランドの広大な土地購入へ

アイスランドのVic村〔AFPBB News

 反対論はこうだ。地球温暖化が進み、近い将来北極の氷が融ける。いずれ北極海航路が開け、同地域の資源をめぐって争奪戦が始まる。

 中国政府に近い黄怒波が北極海の要衝アイスランドに広大な土地を確保するのは、北極海の将来を見据えた中国軍事戦略の拠点作りの始まりに過ぎない、云々。

 黄怒波が880万ドルで買収しようとしたのはアイスランド島北東部の Grimsstadir a Fjollum と呼ばれる僻地だ。この不毛の荒野に1億7500万ドルでゴルフ場とエコ観光リゾートを建て年間1万人の観光客を呼び込むというが、そんなビジネスは成り立たない。やはり黒幕は人民解放軍、という理屈である。

 いかにももっともらしい話ではないか。昔ならコロッと信じたかもしれない。しかし、今はグーグル・アースという便利なソフトがある。

 早速この Grimsstadir a Fjollum なる場所を調べてみて驚いた。300平方キロとはいえ、直近の海岸までどう見ても50キロはある。こんな土地を確保しても軍事的にはあまり意味がないと専門家は言う。

中堅クラスの政商

Grimsstadir a Fjollum

 この中坤集団の総帥、調べれば調べるほど興味深い人物だ。黄怒波は1956年甘粛省蘭州生まれ、寧夏回族自治区銀川で育ったらしい。

 1981年に北京大学文学部を卒業し、中国共産党中央宣伝部や国務院建設部に勤務したと報じられている。

 その後、1995年に不動産開発の投資企業「中坤集団」を設立して巨万の富を手にし、中国市長協会会長補佐、中国テニス協会副主席などを歴任している。

 フォーブスの中国富豪ランキングで2010年に161位、2011年には総資産10億ドルで129位にランクされているそうだ。

 黄怒波は詩人でもある。駱英(Luo Ying)のペンネームで1992年に処女詩集『もう私を愛さないでくれ』を、2007年にも『都市流浪集』を出版している。