「大統領の任期はたったの5年間だが、オーナーは死ぬまでオーナーだ」。韓国の政財界でよく聞かれる言葉である。サムスングループのオーナーである李健熙(イ・ゴンヒ)氏が3月24日、サムスン電子会長に復帰したことは、まさにこの言葉通り、財閥オーナーの絶大な権限を見せつけた。

オーナーは死ぬまでオーナー

サムスン前会長に有罪判決

特別赦免からわずか3カ月で会長にスピード復帰したサムスングループのオーナー、李健熙氏〔AFPBB News

 李健熙氏は、2007年に表面化したサムスン機密資金疑惑事件などの責任を取って、2008年4月にサムスン電子会長などから辞任していた。さらに昨年夏には、この事件で背任・脱税などで有罪判決が確定し、経営の一線から離れていた。

 日本の常識では、背任や脱税で有罪になったら、オーナーといえども、その時点で「完全アウト」だ。しかし、韓国では「オーナーは死ぬまでオーナー」なのだ。

 すぐにそのことが証明された。昨年末に李明博(イ・ミョンバク)大統領が、「国家的な観点から」特別赦免・復権を実施したのだ。名目は「オリンピック」だった。韓国は2018年の冬季五輪を誘致することを決めている。成功のためには、IOC(国際オリンピック委員会)委員でもある李健熙氏に、誘致活動の前面に立ってもらうという狙いだった。

 法的に復権した李健熙氏は、すぐに精力的に対外活動を再開させていた。

 バンクーバー冬季オリンピック期間中は現地に滞在。韓国選手団を激励するとともに、2018年大会を韓国に誘致するために活発に動いていた。

経営への復帰は慎重だったはずなのになぜ?

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 そんな李健熙氏だが、サムスンの経営に復帰することに対しては少なくとも表向きは慎重な姿勢だった。2月5日に、父親であるサムスングループ創業者の生誕100周年記念式典を開いた席で記者から「経営復帰」を聞かれた際も、言葉を濁していた。

 そういう意味では、復帰は唐突と言えた。ではなぜ、今の時期に復帰したのか。

 サムスングループの説明はこうだ。サムスングループは毎週水曜日に、サムスン電子などグループ企業のトップを集めた「社長団会議」を開いているが、2月17日と24日の会議で「会長復帰」を求める声が相次ぎ、これを文書にして社長団の代表が持参し、直接復帰を強く要請したという。

 1カ月後の3月24日に開かれた「社長団会議」に李健熙氏からこれを受け入れるという返答があり、即日、サムスン電子会長に復帰したという。