当初、筆者は本稿の題名を「虎の尾を踏む? グルジア政権」として、再び最近目立っているグルジアのミハイル・サーカシビリ(ミヘイル・サアカシュヴィリ)政権が、ロシアに対して取っている挑発姿勢に焦点を当てようと考えていた。

市民に対する悪質ないたずらか?

「露軍侵攻」の虚偽報道に国民怒り爆発、野党との火種にも グルジア

グルジアのミハイル・サーカシビリ大統領〔AFPBB News

 その中心として取り上げるつもりだったのが、先頃、国際的なスキャンダルともなった「戦時放送」である。日本や欧米のメディアの報道を見る限り、荒唐無稽で極めて無責任な放送内容と形式により、グルジアの評判はさらに下がったと考えるのが妥当だろう。

 筆者も最初に報道に接した際、地方選挙を前にして国民の危機感をあおって政権の求心力を高めようとする意図が見え見えだが、結果的に市民に対する悪質ないたずらになると考え、唖然とした。

 グルジアの知人からも怒りのメールが届いた。多くの国民が実際に戦争の危険を常に感じている中、キャプションなしにこうした番組をプライムタイムに30分も流したことは、非常識のそしりを免れないし、決して許されることではない。

 ただし、実際に番組を見てみると(最近のグルジアの主要チャンネルは、10日間インターネットですべての番組が視聴できる)意外にまじめな番組で、キャプションをつけなかったというミスに騒動に至った問題の核心は集約できる(当然、放送内容の是非も問われるべきであるし、最も視聴率の高い時間帯にキャプションなしで放映し、市民生活に混乱を招いた責任は消えないが)。

 そもそも全体で2時間にわたったこの番組はグルジア語で放送されたため、海外メディアの多くは2次情報に頼っていると考えられる。

 そこで、サーカシビリ政権のロシアに対する姿勢については別途論じることにして、今回はこの問題になった番組の内容と、放送の経緯やその後の対応などについて紹介したい。

「戦時放送」

 問題の放送は3月13日(土)現地時間の午後8時少し前に始まった。冒頭で女性司会者の短い番組紹介の後、午後8時ちょうどからイメディ(希望)放送局の通常のニュース番組「クロニカ(Chronicle)」の形式を取って放送が始まった。

 放送は、冒頭から南オセチアに展開するロシア軍がトビリシ侵攻に向けて具体的に動き始めたというショッキングな報道で幕を開ける。そして、今年5月に予定されている総選挙後に混乱が広がるトビリシの風景を映し出す。

 政権側と野党支持者との間で衝突が起こり、死傷者も続出し、サーカシビリ大統領の退陣を求めるデモ参加者や病院の様子などが映し出されていく(このあたりまでは注意深く見れば将来のシナリオを想定した仮定放送と分かるが、よくできた映像編集であたかも今現実に起こっているかのようである)。

 このタイミングで、グルジアからの分離を求める南オセチアの指導者エドワルド・ココイティの暗殺を狙った襲撃事件が起こり、これに対してロシア政府はサーカシビリ大統領を「国際テロリスト」と非難し、裁判にかけると宣言。