日銀政策委員会メンバーが思っていたほどは、消費者物価指数(除く生鮮食品)、いわゆるCPIコアの前年同月比マイナス幅が縮小してきていない。そのことは、昨年12月から今年2月にかけてのメンバー3人の講演などでの発言内容を時系列で追ってみると、すぐに分かる。

◆須田美矢子審議委員

「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比は、前年の石油製品価格高騰の反動の影響が薄れていくに従って比較的速いペースでマイナス幅を縮小させ、年末にかけて▲1%程度になると見込まれます」(昨年12月2日講演)

◆中村清次審議委員

「最近では、原油価格反落の影響が薄れてきたことなどから、12月のコアCPIは▲1.3%と、マイナス幅が縮小しており、経済の緩やかな回復に伴い、先行きも下落幅縮小の動きが続くと見込まれます」(2月4日講演)(→しかし実際には、2月26日に発表された1月分は前年同月比▲1.3%で、マイナス幅は縮小しなかった)

◆山口広秀副総裁

「ごく最近の消費者物価指数の動きをみますと、マクロ的な需要と供給のバランスが改善している度合い──これを正確に把握することが難しいという問題はあるのですが──この改善度合いに比べると、物価下落幅が縮小するテンポは若干遅いような印象を受けています」(2月24日講演)

「最近の消費者物価の動きは、全体としてみる限り、私どもの見通しから大きく乖離しているということではありません。ただ、微細な動きをみていくと、その下落幅の縮小ペースが少し鈍い、という印象を私自身は持っています。従って、それが事実なのか、仮に事実だとしてどういう理由・原因によるものなのかについては、今の時点では申し上げるべきところにはきていないと思っています。あくまでも印象を述べたというようにご理解頂ければと思います」(同日記者会見)

 ところが、政府側では菅直人副総理・財務・経済財政相が3月1日の衆院財務金融委員会で、「欲を言えば、(昨年11月に)デフレ宣言をして、今年いっぱいくらいには何とかプラスに移行してもらいたいと感じている」と発言。

 これに対し日銀側からは、野田忠男審議委員が3月4日の記者会見で、「私も今年中にそういう状況になればいいなと思っている。希望としてはそういうことだが、今後の政策をどうするかということについて言えば、希望とわれわれが想定している見通しには差がある」とコメントしていた。

 CPIコアの前年同月比マイナス幅縮小の足取りが、日銀の想定よりも、このところ鈍くなっている。一方で、政治の側では経済財政運営のキーパーソンが、CPIコア早期プラス転換の希望を口にするようになった。しかも、為替相場が断続的に円高余地を探っている。財政面では、2010年度予算の年度内成立が確定した。これらの事実から素直に導き出される答えは日銀による追加緩和ではないのか、というのが、市場の読みだろう。

 仮に、日銀政策委員会メンバーの多数がこのまま新型オペ拡充による追加緩和に動く腹を固めるとして、問題点として一つ浮上するのは、どのような理由付けをするのか、ということである。