今回は11月14日、15両日ワシントンで開催された「金融サミット」について論じたい。金融危機をめぐる初の首脳会合から半月経過したものの、「国際金融関係者」として本コラムを担う筆者としては、是非この話題に触れておきたい。

米大統領、金融危機回避にむけた改革の必要性を強調

議長役を死守したブッシュ米大統領
AFPBB News

 金融サミット首脳宣言の内容は他で詳しく紹介されているので、細部には立ち入らない。同宣言は金融市場安定に向けて「あらゆる追加措置を取る」と強調すると同時に、財政・金融政策の活用やIMF(国際通貨基金)・世界銀行の資金基盤の充実を訴え、金融市場改革の5つの共通原則とその具体的な行動計画をまとめた。

 この成果に対しては、「抽象的すぎる」「抜本的な対策が打ち出されていない」など失望する声も上がった。だが、これは欧州の一部首脳が「新ブレトンウッズ体制」という実現可能性の乏しい提案をぶち上げ、期待を煽った反動とも言える。また、市場は「大きな成果は出てこない」と織り込み済みだったのか、会合後もあまり反応を示さなかった。

 しかし、目立った成果が挙がらなかったのは、ある意味で当然なのだ。1944年のブレトンウッズ会議までに約2年の準備期間を必要としたように、今回は「今後一連の会合の初回」(ブッシュ米大統領)にすぎない。

大幅譲歩を「議長」で免れた米国

 今回のポイントは、議長を米国が務めた点にある。

 金融危機を受け、「米国一極体制の崩壊」「ドル基軸通貨体制の終焉」を主張する向きが少なくない。しかし、米国を震源地とする金融危機が各国の市場に大きな影響を与え、また米国経済の減速で多くの国が困難に陥りつつある現状を見ても、世界がまだまだ米国に著しく依存していることは明らかだ(この点で、現在の米国は第2次世界大戦直後の英国とは事情が違う)。

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「首相閣下、貴殿もレームダック?」〔AFPBB News

 今、その米国が政権移行期で身動きが取れないのだから、大きな成果は最初から期待できないと考える方が自然だろう。こうした中で、米国が議長役を買って出た。ブッシュ大統領に「自分の国が起こした危機だから米国で開催したい」と説得されて、麻生太郎首相は議長を譲ったと伝えられている。

 果たしてそうだろうか。「危機の元凶」と糾弾されているからこそ、議論の主導権を握り、そのトーンを決めたいという強い動機があったはず。これが、ブッシュ大統領が自国開催にこだわった真の理由とみてよいだろう。

 議長は議事進行と同時に、共同声明文を起草する。もちろん合意に至る過程で他の参加国の意見も尊重しなければならないが、議長は言葉のニュアンスに至るまで文案をコントロールできる。最終局面では「時間的制約」を理由に持論を押し通し、他の主張を封じることも可能だ。

 だからこそ、国際機関の高官ポストや国際会議の議長、事務局長の座をめぐり、主要国間で激しい争奪戦が繰り広げられ、どの国が会議を主催するかが極めて重要になる。

 既に、ブッシュ政権は「死に体」と化している。他方でオバマ次期政権側としては、就任前から将来の政策を縛られるような国際公約を避けたい。そして、共和、民主を問わず、米議会は欧州や新興国の主張する大幅な規制強化には与し得ない。となれば、今回ばかりは立場の弱い米国にとって、議論の主導権を確保した上で、大幅譲歩を迫られないようにする選択が最善となる。

 こう考えると、金融サミットのつい数日前にホワイトハウスを訪れていたオバマ次期大統領が、この会合に顔を出さなかった理由も分かるはずだ。

 このように、筆者は今回のサミットが大きな成果を挙げることは難しいと予想していたが、それでも開催自体に一定の意義があったと評価している。特に先進7カ国(G7)だけでなく、新興国も巻き込んだ合意の持つ意味は大きい。

 今回、新興国が先進国批判に意気込んで大挙参加してきた。中川昭一財務・金融相が会合終了直後のテレビインタビューで、「最初は本当にまとまるのかと心配したが、合意ができてホッとしている」と話したのは、偽らざる心境の表れだったのだろう。