2010年度がスタートするよりも前から、その一つ先の2011年度予算編成の苦しさを政策当局者自身が認めるという異例の状況下、子ども手当満額支給や基礎年金国庫負担などに必要な財源を将来の増税によって確保していこうとする動きが、断続的に浮上している。財政規律が維持されているエビデンスだという点で、債券市場にとって朗報である。しかし、日本経済全体の将来像という点では、「パイ」全体(=名目GDP)が拡大していく確たる見通しが立たない中での増税強行は、経済の拡大均衡ではなく、縮小均衡の流れを強めてしまう恐れがあることに、十分注意しておく必要がある。
菅直人副総理・財務・経済財政相は、2月20日に町田市長選の応援演説を行った際に、「たくさん収入のある方には少し率として多めに税を払っていただき、そういうお金を子ども手当で応援に回していく」と発言。「累進制が非常に緩和され、ある意味、お金持ちには減税になっている」として、所得税の最高税率引き上げに言及し、「今年からそうした税制の本格的な議論を始めたい」と述べた。
また、前日19日の衆院財務金融委員会で菅副総理は所得税のあり方について、「日本ではこの10年間で最高税率が下がってきた。その見直しも含めて政府税制調査会で検討したい」「現在の所得税では(所得の)再配分機能が低下している」と発言した(2月19日 時事)。この問題では鳩山由紀夫首相も、2月17日に行った志位和夫共産党委員長との会談やその後の記者団とのやり取りで、前向きな考えを表明している。なお、連立与党内では社民党の福島瑞穂党首が、所得税と法人税の増税によって政策に必要な財源を確保すべきという主張を展開している。
所得税最高税率の過去の推移を見ると、1974~83年は75%、1984~86年は70%という、非常に高い数字だった(ただしいずれも賦課制限あり)。1987~88年は60%。その後、税の直間比率是正が断続的に進められる中で、1989~94年は50%(課税所得2000万円以上)、1995~98年は50%(同3000万円以上)、1999~2006年は37%(同1800万円以上)。2007年には所得増税・住民減税の税制改正が行われ、所得税最高税率は40%(同1800万円以上)となって、現在に至っている。これに個人住民税10%(一律)が加わるので、所得・住民減税を合わせた最高税率は現在、50%である。