米連邦準備理事会(FRB)は2月18日(日本時間19日早朝)、金融市場の状況が改善を続けていることに照らして、全12地区連銀からの要請を承認し、プライマリークレジット金利(公定歩合)を2月19日から0.25%幅で引き上げて、年0.75%にすることを決定した。併せて、公定歩合貸し出しを受けることのできる最大期間を、従来の28日間からオーバーナイトへと短縮する(3月18日から適用)。公定歩合と現在のFFレート誘導レンジの上限である0.25%とのスプレッドは、0.5%に拡大した。2007年8月17日より前は、公定歩合とFFレート誘導水準とのスプレッドは1%になっていた。FRBは声明文で、さらなるスプレッド拡大を模索する意向を示している。

 米国の公定歩合引き上げ問題についての筆者の考えは、2月10日に公表されたバーナンキFRB議長の証言原稿をもとに12日に作成した「FRB議長『近く公定歩合引き上げを検討』」で示した通りである。そして、今回FRBが出した声明文を読むと、上記のバーナンキ議長証言原稿と同じ表現がいくつも用いられていることに気付かされる。

「今月初めに実施された一連の緊急信用供与プログラムの終了と同様、これらの変更は、連銀貸出制度のさらなる正常化を意図したものである」

「今回の修正が家計や企業にとっての金融環境のタイト化につながるとは予想されない。経済や金融政策の見通しにおける何らかの変化のシグナルというわけでもない。見通しは、1月連邦公開市場委員会(FOMC)時点と、ほぼ同じままである(The modifications are not expected to lead to tighter financial conditions for households and businesses and do not signal any change in the outlook for the economy or for monetary policy, which remains about as it was at the January meeting of the Federal Open Market Committee <FOMC>.)」

 公定歩合引き上げが行われたタイミングは意外に早かったという印象だが、決定された内容そのものに、意外感はまったくない。FRBは、緊急措置の解除・修正という多分にテクニカルな動きと、FFレートという政策金利の「本線」とを、何とか切り離そうとしている。10日のバーナンキ議長証言原稿、18日のFRB声明文、そしてその後のデュークFRB理事発言は、その点で一貫している。FRBは、物価安定と最大雇用の2つを実現するという政策課題を背負っている。そして、バーナンキ議長が「恐るべき逆風」と形容した、弱い雇用市場とタイトなクレジット状況が、引き続き厳然と存在している。11月には中間選挙という大きな政治イベントもある。年内といった早いタイミングでのFFレート引き上げ(利上げ)は、非常に困難。筆者は引き続き、利上げは2011年半ば以降にしか行われ得ないと予想している。

 市場では、FRBによる今回の決定を受けて、早期のFFレート引き上げを警戒した売りから米国債利回りが上昇したほか、ドルが買い進まれて対円で92円台に乗せるなど、反応が出ている。しかし、筆者のみるところ、これらの反応は過剰である。

 景気回復が万全とは到底言い難いこのタイミングで、長期金利が上昇したり、株価が利上げを警戒して大きく下げたりすることは、米政策当局にとって、決して望ましいことではない。為替のドル高も、オバマ政権が掲げる輸出倍増計画にとって、障害となる話である。

 したがって、市場の過剰反応が仮にこのまま続くようであれば、市場を落ち着かせようとする政策当局者からのメッセージが増えることになるだろう。

 国内債券市場参加者の立場からは、米債安と円安はネガティブだが、米早期利上げ警戒で内外株価が今後下げるようだとポジティブであり、短期的な影響は一定しない。しかし、米国さらには日本の利上げはまだ先の話だという冷静な見方に立てば、市場が過剰反応したところで収益チャンスを見出すことができるとも言えそうである。