2008年は、インターネット活用法が勝敗を決した米大統領選の年として後世まで記憶されるだろう。大統領選でのコミュニケーションツールには、その時代に利用可能な最新技術やアイデアが惜しげもなく注ぎ込まれる。今回の主役? それは、動画や SNS(Social Networking Service)などのサイバースペースを通じた情報共有化、そして「クチコミ型」のバイラル(viral)情報の広がりと言えるだろう(本稿中、意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であるとお断りする)。
「歴史が変わった」11月4日の選挙直後、オバマ次期大統領は政権移行チームの発足と同時に、新政権のウェブサイト change.gov を早速立ち上げた。今回、大きな役割を果たした YouTube 上で、週1回の演説ビデオの放映も開始。第2次世界大戦前、フランクリン・ルーズベルト大統領は「炉辺談話」と呼ばれる週末のラジオ演説で世論に訴えたが、時は変わり、オバマ氏はネット動画を国民との対話手段の中心に据えた。
2004年の前回大統領選でも、ネットは活用されていた。とりわけ、民主党のケリー候補は少額のネット献金を始め、その利用を重要戦略としていた。しかし、今回とは大きな違いがある。1つは、献金の規模が飛躍的に拡大した点。2番目には、米国におけるブロードバンドの普及と相まって、今回は YouTube への動画投稿が大きな影響を及ぼしたことが挙げられる。
まずは、政治献金から見てみよう。今回オバマ陣営が得た献金は推計6.5億ドル(非営利団体 Center for Responsive Politics の運営する OpenSecrets.org 調べ)。ワシントン・ポスト紙の記事によると、そのうち5億ドルがオンライン経由。実に全体の76%がネット献金であり、1人あたり平均80ドルに上る。
しかも、選挙戦最終盤の9月だけで1億~1.5億ドルをかき集めたという。このおかげで、オバマ陣営は4大ネットワークのうち3局と、CATVネットワーク3局のゴールデンタイム枠(30分間)を買い取り、「インフォマーシャル」を放映。視聴者数は3355万人を記録し、米大リーグの頂上決戦「ワールドシリーズ最終戦」を凌駕した(10月31日付 New York Times 記事)。
オバマ陣営のもう1つの道具。それが、動画の活用だ。大統領選挙の専用サイト「YouChoose'08」が開設され、大統領候補の公開討論会の質問も YouTube で受け付けることになった。同陣営は選挙期間中、1800本ものビデオを YouTube で流し、のべ1.1億回も視聴された(11月24日 SFGate.com記事)。マスメディアに依存しない、新しいコミュニケーション手段を確立した。
選挙戦がまだ準備段階の2007年春。民主党内でオバマ氏の名を一躍有名にしたのは、実は「オバマガール」という1本の風変わりなビデオだ。最終的に1200万ビューを記録し、コメント数は6万5000を超えた。これから幾つものビデオ作品が派生しており、オバマ候補の名前を世間に知らしめる相乗効果は絶大だった。
"I Got a Crush...On Obama" By Obama Girl