「笛吹けど踊らず」とでも形容できようか。国内債券相場が膠着状態を続けており、欧米の債券相場が大きく動いても、株価や為替が大きく動いても、感応度が低下した状態を続けている。一般的な説明は、(1)3月期末を控えているためリスクを追加的に取りたくない投資家が多い、(2)内外景気指標の内容がまちまちである上に、日銀が追加金融緩和に動く可能性が高まるほどは円高が進行していない、(3)2010年度予算案の編成プロセスを経て、鳩山内閣の財政運営に対する不安心理や不信感が根付いてしまっているため、2010年度の早期補正への警戒感を含め、債券の買い方向でムードが盛り上がりにくい、といったあたりだろう。債券市場関係者向けのアンケート調査結果を見ると、上記(3)については、回答者の75%が参院選よりも前の補正予算あり、と回答するなど、財政運営に対して債券市場が厳しい視線を注いでいることが確認される。

 そうした中で、ロイターは5日、仙谷由人国家戦略・行政刷新相のインタビュー記事を配信した。内外経済の厳しい現実に直面し続けながらも、債券市場に対して安心感を与えるようなメッセージを出さなければならないというジレンマに仙谷大臣は陥っており、ダボス会議に出席した後も、回答は見つかっていないようである。端的に言うと、6月に取りまとめがなされる予定の「中期財政フレーム」「財政運営戦略」が市場の不安心理あるいは不信感を打ち消すものになる目算は、まったく立っていないのが実情である。仙谷大臣による発言の主要部分を引用した上で、筆者のコメントを付け加えたい。

【日本への注文は「全くない」】

「(ダボス会議では)米欧の財政・金融が主たるテーマで、日本の財政赤字や財政規律の問題にはあまり関心がなかったように思う」

「(同会議で日本への注文は)全くない。財政規律を取り戻すことや中央銀行も含めて金融機関のバランスシートが膨れ上がっていることへの危機意識はあったが、かといって、金融政策も財政政策も出口戦略にもっていけるのかということについて、なかなか踏み切れないと。事を急いで、もう一度クラッシュを起こしてはいけないという議論のほうが強かった」

→ 上記発言からは、経済金融危機後の米英やギリシャなど海外諸国の財政悪化問題の中に、日本の財政悪化問題が今のところ紛れ込んでしまっていることが分かる。したがって、早く財政再建を行うべし、といった政策面での注文が、国際会議で日本に突きつけられるような事態は、当面考えにくい。菅直人副総理・財務・経済財政相が出席したイカルイトG7でも、事情は同じだったと推測される。財政再建のレールを敷き、動きを本格化させるまでに「時間的余裕はまだある」と、政策当局者は認識している可能性が高い。格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)が日本国債の格付けAAのアウトルックをネガティブにした際、仙谷大臣は「少々の余裕、数年の余裕はある」と述べていた(1月27日「日本国債にS&Pが『警告シグナル』」参照)。

【「財政規律至上主義」を否定、経済情勢見極めが重要】

「(日本の財政・金融政策の出口戦略の前提条件については)短期的に、この半年・1年で出口戦略、あるいは財政出動を含め、どうするのか、どうしたらよいのか(経済情勢を)見極めなければ、なかなか右左言えない」

「それ(デフレ)も重しになる。どこまで効き目があるか分からないが、ここまでカネの回りが悪くなると、総需要政策としての財政出動(の議論)が出てくる。低金利政策の上に量的緩和政策をやれという議論が必ず出てくるだろう。実際、今、地方を中心に可処分所得が落ち、カネの回りが悪くなっており、出口戦略は『そんなデフレ政策みたいなことやってどうする』という議論がぶり返すことは間違いない」

「出口戦略は慎重に考えなければいけない」

「財政規律至上主義になったら元も子もない」

「(国債発行はなんとか削減していくというスタンスは示せないのか、という問いに)そこだけを言うと、財政規律至上主義になる。現在は世界経済が全体として異常事態だということを認識する必要がある」