前回に引き続き、重さが100万分の1グラムという世界最小の歯車の開発で知られるプラスチック小型精密部品メーカー、樹研工業が誇るユニークな経営手法をお伝えする。同社は、会社方針として、「新技術の開発」「品質を中心とした管理技術の確立」「戦略的財務会計」を掲げている。
会社の業績と潜在能力発揮の相乗効果
そしてこの3つを生かして会社を経営するには、人材育成が重要なポイントとなる。
特に「新技術の開発」で競争力を維持するには、常に全く新しい領域への挑戦をすることになるため、潜在能力の発揮が欠かせない。
具体的な商品開発の方針としては「世界ナンバーワンの技術で、価格競争はしない」「言われたものを作るのではない、部品のプロとして顧客に貢献できる商品を作る」「コストを下げ、性能を上げるためにはどんなに製造技術が難しくてもかまわない」の3つ。
その方針の下、社員は常に今までとは違ったやり方、新しい方法への挑戦を強いられる。また社員は、提案力、技術力を磨くために必死で勉強しなければならない。その時に経営者として大事なのは「場所とチャンス」を与えることだ。
同社では社員が必要だという設備については、必要だと思えば社員の言ったものよりもっと上の性能のものを購入するという。もちろん資金は余計にかかる。しかし、社員の成長の伸びを勘案してそうするのだそうだ。
そして、「現在の経営者はそういった投資ができないといけない」と松浦元男社長は語る。
世界一の精度を誇る樹研工業のナノ切削に関係する設備には、合計すると約6億円が投資されてきた。そのような投資に踏み切ったのは、松浦氏が経営者として、30年後の日本で製造業にブレークスルーをもたらす技術を考えた時に、光通信分野に標準を合わせたからだ。
売上高が70億円ほどの企業が研究開発に投資する額としては破格と言えるだろう。設備導入から4年間は訓練を行い、5年目である今年から徐々に商品の注文が入り始めているそうだ。