英語で「リセッション(recession)」を婉曲に示そうとする場合、「Rワード(R-word)」という言い方がされることがある。同様に、「デフレ(deflation)」について、「Dワード(D-word)」という言い方がされる。11月3日のフィナンシャル・タイムズ紙は、「Dワードが戻ってきた」という書き出しの記事を掲載した。

 「Rワード」に続き、市場の関心は「Dワード」へと向かいつつある。各種物価指標が前年同月比でマイナスに沈むと予想される2009年には、2003年のような「グローバルデフレ」懸念をテーマにした相場展開が、債券をはじめとする各種市場で見られる可能性が出てきている。
「原油バブル」崩壊によって、各国の生産者段階および消費者段階の物価指標は、これまでのプラス幅拡大基調から反転。夏場をピークに、急速にプラス幅縮小基調に転じており、原油が今年急上昇した反動が統計上出てくる来年夏以降には、前年同月比でマイナスに転じる指標が増加する見通しとなっている。

 日本では、10月の企業物価指数(国内企業物価)が前年同月比+4.8%となり、8月に記録した同+7.4%をピークに、2カ月連続でプラス幅を縮めた。国内需要財の内訳を見ると、消費財が前年同月比+0.4%になり、早くもゼロ%に迫ったことが特筆される。

 また、9月の企業向けサービス価格指数は、バルチック海運指数の急低下に代表される運輸関連の価格下落を主因に、前年同月比+0.1%までプラス幅を一気に縮小しており、10月分ではマイナスに転じる可能性が高い。

 消費者段階の指数では、9月の全国消費者物価指数(除く生鮮食品)が前年同月比+2.3%となり、7・8月に記録した+2.4%をピークに、プラス幅縮小トレンドに入った。10月分では+2%割れが濃厚で、2009年にはマイナスに沈む月が出てくる可能性が現状高い。

 18日の米商品先物市場では、原油WTI先物が1バレル=53.96ドルまで下落した。OPEC(石油輸出国機構)原油バスケット価格はすでに50ドルを割り込んでいる。

 しかし、世界経済悪化を食い止めることで、G20が金融サミットで合意したばかりであり、そうした動きに水を差すとも受け取られかねない追加大幅減産による原油価格テコ入れには、OPEC内の穏健派諸国が慎重な姿勢をとっているようである。

 WTIの50ドル割れはもはや避けられない情勢。そうなると、史上最高値である147.27ドルから、原油価格は約3分の1になる。

 また、18日に出てきた欧米物価指標を見ると、米10月の生産者物価指数が前月比▲2.8%と、統計開始以来最大のマイナス幅を記録したことが、まず目を引く。主因はエネルギーで、前月比▲12.8%と、1986年7月以来の大幅な下落となった。最終財の前年同月比は+5.2%で、8月に記録した同+9.6%をピークに、2カ月連続でプラス幅を縮小している。

 さらに、英10月の消費者物価指数は前月比▲0.2%で、市場予想を下回った。前年同月比は+4.5%で、9月に記録した今回局面のピークである同+5.2%から、0.7ポイント鈍化した。この0.7ポイントという鈍化幅は、1997年の現行統計開始以来、最大である。

 英国でも、物価下落の主因は言うまでもなく、ガソリンなどエネルギー関連である。また、エネルギー・食品・アルコール・タバコを除いたコア指数は前年同月比+1.9%で、前月から0.3ポイント鈍化した。

 

 トリシェECB(欧州中央銀行)総裁は18日、英国で行った講演後の質疑応答で、デフレ懸念浮上問題に関連して、ユーロ圏では「デフレの兆候は一切ない」と強調。「そもそもデフレというのは全般的な物価の下落を言うのであり、ディスインフレとは全く異なる」とした。