2009年12月18日、米自動車メーカー大手ゼネラル・モーターズ(GM)は、傘下に置くスウェーデンのブランド「サーブ」のスパイカー(オランダ)への売却を見送ると発表した。ただ、発表後にGMとスパイカーは再交渉に入ったと伝えられており、事態はなお流動的だ。最終的に合意に達しない場合、サーブ・ブランドは段階的に整理・縮小され、事実上閉鎖に追い込まれる可能性が高い。これに先立つ11月24日には、スウェーデンのスーパーカーメーカー、ケーニグセグによるサーブ買収計画が突然、白紙撤回されていた。
サーブの本拠地であるスウェーデン南西部トロルヘッタンにとっては、この3週間で2度も大きなショックに襲われたことになる。しかし今回は、ショックより悲しみや寂しさに包まれていると言ったほうがよい。サーブの「城下町」には4万5000人が住んでいる。うち3500人が直接サーブで働いており、それ以外でも関連している雇用が圧倒的に多い。
サーブの閉鎖は従業員3500人の失職のほか、同社に依存してきた1万2000~1万5000人に上る部品産業などの雇用を直撃する。世界中に存在する販売代理店にも、甚大な影響を及ぼす。
この周辺には2004年末から政府が投資し、「自動車産業クラスター」が形成されている。自動車産業に従事する労働者を対象とする教育や、研究開発への支援、国道の高速道路化、鉄道の複々線化などインフラの整備が進められてきた。サーブが姿を消してしまったら、こうした投資も無になってしまうのか。
GMが「厄介払い」打診、スウェーデン政府は拒絶
2009年2月、サーブは事実上経営破綻し、親会社のGMは直ちに2010年1月1日までに自社からサーブを切り離す方針を示した。それ以前から、GMはスウェーデン政府に対してサーブを買い取るよう再三打診。不採算のブランドを押しつけ、「厄介払い」しようと躍起になっていた。
その後、GMのボブ・ルッツ副会長はボルボ・カーとサーブが合併することを望んでいると述べ、「それで我々も(ボルボを傘下に置く)フォード・モーターも問題を片づけられる」と語った。また、「20年にわたり、サーブは我々に赤字をもたらしただけだ」と付け加えている。
これに対して当然、地元は批判の集中砲火を浴びせた。GMには社会発展のために産業を立て直そうとか、自社が雇用している従業員の生活を守ろうという姿勢がかけらもない――。
2009年11月にサーブ売却が白紙に戻った時点で、GMは直ちに欧州のオペル全体で9000人を解雇すると発表した。その約半数をドイツ、残りはスペインや英国で削減するという。
GMのニック・レイリー欧州部門責任者は「この業界の競争は過酷で日ごとに厳しくなっている。我々は収益を上げるため、構造的なコスト削減策を遂行しなければならない」などと釈明に追われた。
サーブ破綻の責任は誰にあるのか?
12月19日、スウェーデンの全国紙ダーゲンス・ニーヘテルは「サーブはGMの誤った経営で破綻した」との大見出しを掲げた。
「サーブが競争力のあるクルマを作ることは不可能ではなかったはずだが、GMはそうしようとしなかった。GMはサーブに適切なクルマを造らせようとしなかった。20年間の消極的な経営の後、GMはサーブを解体した」