民法の債権分野の改正作業がこの秋、法務大臣の諮問機関・法制審議会で始まりました。ご承知の方も多いと思いますが、民法には「総則」と、「物権」「債権」の財産法部分、「親族」「相続」の家族法部分があり、1898(明治31)年に施行されました。

400カ条に及ぶ大改正がいよいよ始まる

 家族法は1947年の新憲法制定に伴い全面的に見直しがされましたが、債権分野は2004年に片仮名文語体が現代語化された以外はほぼ手つかず。つまり成人年齢と同じく約110年ぶり、しかも改正の対象条文は契約に関する膨大な量となり、一説には約400カ条と、まさに大改正、大事業と言える規模です。

 何しろ、制定から今日までの間には、いくたの戦争があり、世の中の価値観が180度ひっくり返る歴史もありました。大きく変わった契約ルールの現実に即して民法を変えるのは時代の要請でしょう。

 それだけに10月28日に法制審議会に諮問され、11月24日には初の専門部会が開かれましたが、審議スケジュールも「1年半程度の調査審議を経て中間的な論点整理を行う」とされ、2012年の通常国会への法案提出が目標という長丁場。

 専門部会には弁護士や法務省、最高裁など法曹関係者はもちろん、三井住友銀行法務部長、東京電力法務室長、また千疋屋総本店社長といった企業側の委員も入ったように、ビジネスマンにも影響の大きいテーマだけに、腰を据えた審議が必要なのです。

 では、具体的にどんな検討項目があるのか。例えば損保保険業界の注目は、「法定利率」の見直しでしょう。民法404条で定めている法定利率は現在年率5%ですが、これを引き下げるかどうかで、交通事故などで死亡、後遺症が残った場合に保険会社が支払う保険金の額が変わってくるからです。

法定利率引き下げは大きな争点の1つ

 というのも、被害者側に払われる額は、被害者の逸失利益(事故に遭わなければ得られた収入)を基に算定されます。ただ、その額を支払うと、運用によって殖やせるため、運用益に相当する部分を年率5%として差し引きます。

 これを「中間利息の控除」と言いますが、法定利率が下がると、控除の割合が減り、保険金は増えることになるからです。この法定利率採用は2005年の最高裁判決で統一基準として打ち出したものですが、市場金利との乖離もあり、低金利時代に対応した利率の見直しが求められていました。