アカプルコは、その昔、スペインのアジア貿易の要所として開発が進んで、今ではメキシコを代表する国際的なリゾートの1つである。

メキシコのアカプルコ。
今、ここ!

 夏のある日、メキシコシティからアカプルコ行きのバスに乗り込んだ。バスは、定刻通りに出発。高級リゾートまで直行するリムジンバスには、白地に波打つ青い波模様が描かれている。リクライニングシートは飛行機のファーストクラスを思わせるほど幅が広く快適で、行き先、アカプルコのリゾートを彷彿させる。

 柔らかいサスペンションがゆりかごのようで、いつのまにかうとうとするが、車体が左右にゆっくりと大きく揺れたので目を開けると、バスは停車し、乗客が一斉に荷物を持って立ち上がった。

 外に出ると、そこは、標高2240メートルの高原にあるメキシコシティとは打って変わって、あたりを焼き焦がすような強烈な日差しが降り注ぎ、超高気圧の中で酸素を吸っているような濃密な空気に、心肺機能は躍り上がるようだ。太陽が燦々と光を放っているので、目に映る風景は原色が色鮮やかに感じられる。往来する人々の表情も、豊かに、力強く見える。

プールでは男女の歓喜の声

 目指すホテル・モナコは海岸すぐ脇の街の目抜き通り沿いにあり、中庭には小さいながらもプールがあった。しかし、超高級ホテルや有名ブランド、ラグジュアリーなレストランが軒を連ねるこの界隈では、最低ランクである。

 フロントの女は若い褐色の肌に白いシャツを着ている。その女は英語を話し、長い睫毛の目がエキゾチックで魅力的だ。

 早速、部屋に荷物を下ろし、ビーチを散策。浜辺は外国人観光客でにぎわっている。女性の水着を鑑賞するのにサングラスは必需品だ。クリーム色の近深の砂浜は、強く引いた弓のような深い弧を描き、紺碧の海に浮いている。マリンジェットやパラセールに興じる人々の歓声と、サルサやティンバの音楽、規則正しい潮騒が交錯し、ただ、たたずんでいるだけで、なにか大いなるものに祝福されているような気持ちになる。

 東の岩場の方へ歩くと、大きな鳥の群れが目に入る。よく見ると1メートルはありそうな巨体。口ばしがテーパー状に長く、首がにょろりとS字に曲がったウミドリが20羽ほど、水際で祝いの喜びを舞っている。岸辺には、引き揚げられたばかりの地引き網が広げられ、観光客の人だかり。

 網の中には、まだ、生きている魚の群れが踊り、銀色の鱗が勢いよく閃光を瞬かせている。海面のウミドリは、網の目から漏れたごちそうにありついていたようだ。