今年は、「トヨタ生産方式」の生みの親とされる大野耐一氏の生誕100年に当たります。

 トヨタ生産方式は大野氏の意思で公開され、誰でも自由に使える時代がありましたが、20年程前からトヨタ自動車は社外秘扱いにしてしまいました。そのため、現在巷間で行われている「トヨタ生産方式」には、残念なことに大野氏の高邁な経営哲学の部分が伝わっていません。トヨタの現場を垣間見て、その断片を寄せ集めた事例集に過ぎない「似非トヨタ生産方式」も横行しています。

 「会社都合で従業員を解雇しない」という基本思想があるはずの「トヨタ生産方式」を名乗って、平然と解雇を進めているコンサルタントもいます。これを看過すれば、まさに「玉石倶に焚く」の言葉のように「トヨタ生産方式」が消滅してしまいます。

 筆者は、トヨタ創業以来、現場で醸し出され、大野耐一氏の高邁な経営哲学で仕上げられた「本物のトヨタ生産方式」を少しでも世間にお伝えしたいと思います。そこで、筆者がトヨタの現場で35年間、諸先輩とともに考え、目指してきたこと、実際にやってきたことを、巷間の「トヨタ生産方式」と区別し、あえて「本流トヨタ方式」という名前をつけ、根底にある「哲学」に重点を置いて説明しています。

 本連載ではその哲学を、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明してきました。

 ここ何回かは、「(その4)現地現物」に関してのお話です。特に、現地に行った際は「何を見て」「何を読み取るか」が一番大事な問題であるという話をしています。

 先回は、「現地現物」というのは、表に見えていない部分も見抜く「洞察力」をもって見なければいけないこと、そのためには現場でよく観察した上で「何故」「なぜ」「ナゼ」を繰り返さなければいけないことをお話しし、自然科学の知識が役に立つことを説明しました。

バラツキを小さくすることこそが「改善」

 現地現物に関して、今回と次回の2回にわたって「バラツキ」や「不揃い」について、様々な角度からお話ししたいと思います。

 まず、バラツキとは何でしょうか。キャッチボールを思い起こして下さい。相手の胸元めがけて投げてもボールは思いどおりには飛んでいかず、上下左右に外れていきます。