八ッ場ダムの建設中止に高速道路の無料化、日本航空の再建策――。9月16日の政権発足以来、前原誠司国土交通相がニュースに登場しない日はほとんどない。
日本の「観光立国」化に向けた環境整備にも熱心で、「2020年に2000万人」とする訪日外国人客数の目標値を、2016年に前倒しする方針を示している。ところが、景気後退の影響で観光客数は激減しており、「2010年に1000万人」という第1目標の達成すら危うくなっている。
2001年の中央省庁再編で旧建設省、運輸省、国土庁に海上保安庁の4官庁が一緒になって発足した国土交通省は霞が関でも一、二を争う巨大官庁だ。2008年10月からは観光庁も発足。所管業種の間口の広さでも他の追随を許さない。
だが、政治主導の民主党政権下で、マスコミの取材など対外的な対応を許されているのは大臣と2人の副大臣、3人の政務官の計6人の政治家だけ。政治部記者が省内をわが者顔で闊歩し、国会対応と議員先生方へのご進講と審議会の設置が主な仕事だった官僚は暇を持て余している。中には「不用意に政策について話すと自分の首が飛びかねませんから」と “沈黙は金” を決め込んでいる御仁も少なくない。
松下翁の提唱引き継ぎ、「観光立国」実現へ
そんな国交省の中で唯一の例外は観光庁だ。「我が省の中で最も前向きな部局なんです。何しろ大臣が後押ししてくれていますからね」。幹部の表情は明るい。
前原国交相は、9月17日の就任会見で、政策の柱として日本の成長分野である観光振興に注力する考えを示し、「観光立国をさらに推進する」と表明した。
松下電器産業(現パナソニック)の創業者、松下幸之助氏が設立した松下政経塾の出身でもある同相は、会見の中で松下翁が「観光立国」を提唱したことにも触れ、観光立国実現への思い入れを語った。
就任後には「2020年に訪日外国人客2000万人」としていた従前の目標は生ぬるいと、2010年に1000万人を達成した後、2013年1500万人、2016年2000万人、2019年は2500万人とする目標を設定するよう指示した。そのペースで伸び続ければ2022年には3000万人に到達する計算だ。