たばこが健康を害することは分かっていても止められないのが喫煙者の悩みの種。禁煙をいかにして成功させるか、日本禁煙学会の理事長で、杏林大学神経内科の作田学客員教授に取材した。今回と次回、インタビュー形式でお届けする。

心筋梗塞による死亡率は、20%アップ

作田学(さくた・まなぶ)氏
1947年10月31日生まれ。東京大学医学部卒業。ミネソタ大学神経内科客員助教授、杏林大学第一内科主任教授などを経て、現在、日赤医療センター神経内科に勤務。東京脳神経センター 神経内科に勤務。日本禁煙学会理事長

――喫煙が健康を害する具体的なデータを教えてください。

作田 厚生労働省は、たばこが原因で亡くなっている人は1年に12万人程度と発表しています。しかし実際にはもう少し多くて、20万~30万という数値を出す専門家もいます。

――一番多いのはやはり肺がんですか?

作田 いいえ。心筋梗塞です。その後に、脳梗塞、肺がんと続きます。心筋梗塞や脳梗塞が多い原因は3つ。まずたばこによって動脈硬化が進むこと、次に血液がドロドロになって血流が悪化すること、最後に、一過性に血圧が上昇することによって、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。

――どのくらいの割合で増加しますか?

作田 例えば、スコットランド、イングランド、イタリアなどでは、レストランなどの公共機関で禁煙した場合、平均して20%くらい心筋梗塞による死亡率が減少したというデータがあります。

――がんについてはどうですか?

作田 たばこの煙が直接当たる咽頭や肺や舌のがんが増えるのは当然ですが、ほかのがんの発症率も総じて高くなります。というのは、喫煙によって摂取した発がん物質が血流によって全身に運ばれるので、そのリスクから外れる部位はほとんどありません。

 胃がん、肝臓がん、腎臓がん、膀胱がん、食道がんなどの発症率は、確実に高まります。さらに、白内障や歯槽膿漏のリスクも高まります。歯槽膿漏は、血流が悪くなり、感染症に対する抵抗力が弱まるために進むと考えられます。

――受動喫煙のリスクはどうでしょうか?

作田 受動喫煙が原因で死亡したと考えられるのは、だいたい1万~2万人と言われています。主流煙は、約800度という高温で燃焼しているのでかなりの有害物質が分解されていますが、副流煙は低温燃焼なので化学物質が大量に含まれています。