「日本の自動車メーカーは、ハイブリッドカーに代表される『環境技術』で世界をリードしている」「欧米勢もここへきて『環境対応』に力を入れ始め、日本に追いつこうとしている」──。

 これが新聞、テレビに代表される「メガメディア」が伝える「技術面から見た」自動車産業の「今」。おそらくこのコラムを読まれる方々の多くは、それが現況であり、世界の潮流だと受け取っているのではないかと思う。

 けれども、ことはそう単純ではない。

 日本の自動車メーカー(のうちの2社)が先行しているのは、ハイブリッド動力システムを市場に投入して、ユーザーによる「実用試験」を経てきたこと。そこで得られたものは、信頼性に関わる弱点の洗い出しと改善、同時に大幅なコスト低減に集約される(後者は、それぞれの部品メーカーに対するコスト押し下げ圧力と、それに応える努力によって達成されたものだが)。

 もちろんそれは、自動車のような量産・量販・汎用工業製品には欠かせない資質である。しかし、日本のメーカーにとって、今、そして今後何年間か、他者の追随を許さないほどのアドバンテージが蓄積されているのかどうか。

 この10年間、日本で市販されたほぼ全てのハイブリッド動力の乗用車を体験し、観察してきた者としては、メガメディアの人々ほどには楽観的になれない。

日本製ハイブリッドカーの10年は「消極的な改良」の積み重ねだった

 筆者がずっと続けてきた実車評価の中で、市場投入からここまでの間に、ハイブリッドカーの開発者たちが最も多くの試行錯誤と手直しを重ねたことを実感し、その内容も確認できているのは、電池の「使い方」である。

 1990年代半ばの時点で、自動車向けの大型の「組電池」(多数の電池を直列につなぐ)として、爆発などあってはならないトラブルを起こさないことも含めて、実用レベルに達していたのはニッケル水素電池だけだった。したがって、トヨタ自動車「プリウス」(1997年発売)とホンダ「インサイト」(99年発売)にとっては、当然の選択だった。以来、全ての日本製ハイブリッドカーはニッケル水素電池を搭載している。

 その直前の数年間、世界中で電気自動車(EV)の開発がブームとなり、その中でニッケル水素電池の開発も加速されて、その基本的な性能(もちろん安全性も含めて)が自動車の走行エネルギー貯蔵装置として使えるレベルにまで達していたのである。

 そう、最近にわかに脚光を浴びているEVだが、ハイブリッド動力システムの市場投入の直前は、EVこそが「クリーンエネルギー自動車」の本命と考えられ、米ゼネラル・モーターズ(GM)も、そして日本のメーカーも、試験販売にまで踏み出していた。その中で、現実の路上を走った時の航続能力や充電の方策などの難点から、今日の自動車交通の中で実用に供するクルマとしては限界があることも明らかになっていた。今日でもその弱点や限界が克服されたわけではない。日本のメディアからは、あの頃の記憶はすっかり消えてしまっているようだが。

プリウス(3代目)のニッケル水素電池パッケージ

 話を日本製ハイブリッドカー(とりわけトヨタ)の「電池の使い方」に戻せば、ニッケル水素電池を大型の「組電池」としてクルマのエネルギー貯蔵装置に使い、それを現実の市場に投入した時に直面した最大の問題は、「劣化」だった。

 充放電を繰り返す中で、二百何十個も直列につないである「セル」のどれかの働きが落ちるだけで、全体の能力がガタ落ちしてしまう。少なくとも、クルマの寿命の間は電池パック全体を交換しなければならなくなるような性能劣化が起こらないようにしないと。それが起こってしまうと電池パック全体を交換するしかなく、一般的な保証期間内であれば、そのコストはメーカー自身が負担せざるを得ない。