白川方明日銀総裁はG20財務相・中央銀行総裁会議終了後の5日の記者会見で、「私からは、経済情勢に関しては、先行きの世界経済について、バブル崩壊後のバランスシート調整には時間がかかること、その間の景気回復は緩やかなものとなる可能性が高いこと、などを中心に説明しました」と述べていた。「偽りの夜明け」にだまされてはいけないという警告メッセージを、白川総裁は海外の政策当局者に対して、引き続き発信しているようである。
その甲斐あってか、ブラウン首相やイングランド銀行キング総裁といった英国の要人からは、「日本の教訓」を重視した発言が目立つ。だが、それだけではない。米国人やフランス人からも、景気や金融システムの今後を安易に楽観すべきではないと強調する発言が出てきている。ここでは、2人の発言を取り上げたい。
◆ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授(元世界銀行主任エコノミスト)
(9月3日 インタビュー。時事通信、ロイターの報道から引用)
「楽観的なシナリオは、日本のような長期低迷が続く場合。だが、住宅の差し押さえや商業用不動産向け融資の焦げ付き増加で、金融不安が再燃し、2010~11年に景気が二番底をつける可能性が非常に高い」
「(米大手金融機関の業績改善は)金融大手の相次ぐ破綻による競争緩和とゼロ金利政策によるもので不健全だ。財務についても、時価会計の緩和で不良資産の評価損を計上しなくて済むようになり、損失処理は先送りされた。金融システムに対する信頼感は回復していない」
「賃金が減少する可能性は排除できない。事態をより複雑にするのは、物価の下落圧力である」
「米国は日本と異なり国内に貯蓄が少なく、低金利で国債を発行し続けることができない。 (1990年代の)日本よりも事態は深刻だ」
◆ドミニク・ストラスカーン国際通貨基金(IMF)専務理事
(9月4日 ベルリンで講演)
「緩和的な金融・財政政策の時期尚早の解除(出口)が、主要な懸念材料だ。さらに、金融セクターの問題は、特に銀行の健全性回復に向けた努力が完了しない場合には、長期化し得るし、さらに強まることさえあり得る」
「今後を展望すると、私は金融、そして経済の局面の後に続く、今回の危機の第3の局面を懸念している。すなわち、失業の増大である。経済成長が潜在成長率に満たない中で、来年を通じて失業が増大するとわれわれは予想している。雇用なき回復は引き続きリスクだ」