米国人の平均寿命が、過去最高の77.9歳となった。男性が75.3歳で、女性が80.4歳。この30年で、男女の平均寿命の差が8年から5年へと縮まった。
これまでなぜか低かった黒人男性の平均寿命が、初めて70歳の大台を超えた。平均寿命が伸びたのは、死因トップ15のうち、8つの要因による死亡者数が減ったのが理由だ。つまり、インフルエンザ/肺炎、殺人、事故、心臓疾患、脳梗塞、糖尿、高血圧、癌の死亡率が軒並み減少した。また、エイズの死亡率は過去10年で最大の減少率となっている。
しかし過去最高といっても、先進国の中では最低の水準だ。国連の統計によると、長寿世界一の国は変わらず日本。米国は38位で、目の敵にしてきたキューバにさえ負けている。
1人当たりの健康管理費用が、世界で最も高くかかっているにもかかわらずだ。
オバマ大統領の医療保険改革の目玉である公的健康保険の導入を巡り、米国が騒然としている。今、こんな噂がまことしやかに流れている。公的健康保険は「米国を社会主義国家」にし、病気になると保険庁の職員によって結成された「死の審査員」らがやって来て、生きる価値があるか、死ぬべきかの決定が下されるというものだ。
多くの米国人がこれらの噂を真に受け、公的健康保険の導入に猛反発している。地元の説明会で感情的になった有権者からののしられる議員の姿が連日ニュースで流れている。
ここまで過敏に反応するのは、多くの米国人が医者や処方薬に対して強い依存心を持っているからだ。特に収入が低ければ低いほど不健康な人が多く、医療を必要とする傾向がある。
米国では健康にも「格差」が存在する。低所得者層は富裕層に比べ、圧倒的に不健康だ。
医療雑誌「The American Journal of Medicine」(6月号)に、米国人の健康状態は18年前より悪化しているという報告があった。例えば、肥満人口は28%から36%に増加した。
同報告によれば、健康的な生活の5つの基準(定期的な運動、果物と野菜を多く摂取、標準体重維持、節度あるアルコール摂取、喫煙しない)を満たす米国人の割合は、18年前の15%から8%に減ったとある。また、1日に5種類以上の果物と野菜を摂取する人は、42%から26%に減少している。
ここで健康状態を悪化させているのは、もっぱら低所得者層の人々だと思われる。その傾向は経済危機を機にさらに強まっている。
新鮮なものを口にしない低所得者層
米国中西部を旅すると、米国民の平均的な食生活を垣間見ることができる。どの町に行っても、全く同じ5~6種類のファストフードの店しか外食する場所がない。ハンバーガー、サンドイッチ、ピザ、フライドチキン、アイスクリームと決まっていて、ほぼ同じ有名チェーン店の顔ぶれが並び、大きな看板が町の個性を消してしまっている。