また同年6月には、フィリピン西方の公海上を航行していた米海軍駆逐艦ジョン・S・マケインが曳航していたソーナーに中国潜水艦が衝突し、破損する事案が発生した。
米中両国は、外務、国防の両側面で鎮静化を図り、再発防止や協力関係強化のための協議を続ける姿勢を見せながら、水面下では「クールな戦い:静戦(Cool War)」を繰り広げてきた。
昨年7月のARF(ASEAN地域フォーラム)におけるクリントン長官の発言以降、中国は南シナ海問題について、米国の関与を伴う多国間による協議を忌避し、従来のように2国間での協議での外交的解決を求める姿勢を随所で露わにしてきたが、ここにきて中国とベトナムおよびフィリピンとの領有権を巡るホットな事案が頻発するようになった。
今年3月には中国艦艇が南沙諸島の係争地域でフィリピンの資源探査船に停止命令を出して妨害し、5月には建造物を建設する動きを見せた。
一方、昨年6月には中国当局がベトナム沖で同国漁船を拿捕する事案が発生していたが、今年5月にはベトナムの石油探査船の探査ケーブルを切断し、6月にも再度妨害行為に出てきた。
こういった行為に対し両国政府は直ちに抗議するが、中国は、1992年の領海法などを盾に、いわれのない非難であるとその都度応酬してきた。
その一方、中国政府は両国に対し、2国間の外交協議での解決を求めている。中国は、いわば硬軟を使い分けて、政治、経済、軍事力の弱い国への圧力を個別にかけ、有利な解決に結び付けようとしているのである。
揺れ動くASEANの対中結束
こういった動きに対し、ASEANは多国間協議を求める姿勢に転じつつある。南シナ海問題の当事国ではないミャンマー、カンボジア、ラオスは、こういった姿勢に消極的と言われているが、ARFでのクリントン発言以来、拡大ASEAN国防相会議(ADMM+)やその他のASEAN主体の多国間協議の場で、徐々にその機運が醸成されてきた。
南シナ海問題での中国と係争国や米国の姿勢を端的に示すのが、本年6月のシャングリラ会議(アジア国防大臣級会合)でのやり取りである。
筆者も参加したこの会議で、中国の梁国防部長は、中国は「覇権主義を取らない」として軍事力の平和・協調路線を訴えたものの、会場からは多くの疑問の声が相次いで発せられた。
