初代の黒人大統領になるのは、コリン・パウエル前国務長官だと言われてきた。ブッシュ政権内部の勢力争いに負けるような形で辞任するまでは、そう思われていた。
軍人としてトップに上りつめ、輝かしい業績を残して政治家に転向。卓越した知性とバランス感覚を持つ一方で、温厚な人柄で人望が厚い。
しばらく政治の世界から遠ざかっていたパウエルが再び注目を浴びるようになったのは、バラク・オバマが民主党大統領候補になってからだ。パウエルは共和党員だが、同じ黒人としてオバマを支持するのではないか、という噂が立ったのだ。
昨年9月、共和党員としてジョン・マケイン候補に投票するのか、それとも初の黒人大統領を実現させるためにオバマ候補に投票するのかと質問され、彼は次のように答えた。
「私はまず第一にアメリカ人であり、それを誇りに思っています。25年もの間、親愛なる友人であり同僚であるマケインには、『君のことは大好きだが、友情や愛情で投票を決めることはできないよ』と言いました。オバマには『君には敬服するし、どんな相談にも乗るが、黒人同士だからといって投票するわけにはいかないよ』と言いました」
そのパウエルが、投票日およそ2週間前にテレビ番組に出演し、オバマを支持することを表明した。
彼の支持表明は、オバマ陣営とマケイン陣営の誹謗中傷合戦がピークに達した時期と重なった。特にマケイン側の攻撃は政策論争とはまったく関係のない、稚拙で下卑た個人攻撃の繰り返しで、誰もがうんざりしていた頃だった。
そのため、久しぶりにまともな意見を聞いたような気がした。米国では「目が覚めるような思いだった」という反響が相次いだ。
マケインに不安を感じたきっかけ
テレビでは、パウエルへの約30分にわたるインタビューが行われた。パウエルは、マケインもオバマも優れた大統領になる資質があると述べた上で、マケインに不安を感じるようになった2つの出来事について説明した。
まずは9月に始まった金融危機だ。「この問題の全体像を把握できず、具体的にどのように対応するつもりなのかが伝わってこなかった。そのため、彼の指導力に疑問を抱きました」
2つ目は、サラ・ペイリンを副大統領候補に選んだことだ。「彼女が素晴らしい女性だということは分かりますが、副大統領はいつでも大統領を代行できる人物でなければなりません。ここ数週間よく観察してきましたが、今の彼女には無理だと思います。そこで、ペイリンを選んだマケインの判断力に疑問を感じたのです」