新法成立後の初会合では、政府代表として出席した尾身幸次経済企画庁長官(当時)が、日銀の慎重な景気判断に対し、「我々の景気対策の足を引っ張るのは避けてもらいたい」「日銀の(悲観的な)レポートが景気を悪くしている」と露骨に介入している。
また、ゼロ金利を決定した1999年2月の議事録は、政策委員会メンバーらが突如として長期金利の上昇と円高を懸念し、強引に超低金利政策を導入しようとした経緯が明らかになった。当時、「水面下で政府の強い圧力があった」(日銀幹部)と言われたが、議事録の不自然な議論内容はこれを裏付ける。
政権与党となる民主党が、今後、財金分離を重視する姿勢を貫けば、国際的にも評価されるはずだ。バブル崩壊で欧米中央銀行は非伝統的緩和措置を余儀なくされ、金融政策は財政政策の領域に突入している。財金融合で中央銀行の独立性は危うい状態だ。
米国では、連邦準備制度理事会(FRB)などの国債大量購入が財政マネタイゼーション(中央銀行による財政赤字の穴埋め)と見なされ、ハイパーインフレーションへの懸念から長期金利が一時急騰する事態も招いた。
出口政策の成功には、財金分離原則が不可欠
財金分離は、非伝統的緩和措置を解除する「出口政策」を成功させるために、最も重要な原則となる。財政化した金融政策の正常化は政府にとって支援を失うことになるので、中央銀行の出口政策は政治的に阻止されかねない。
民主党が財金分離を鮮明にすれば、日銀の出口政策は担保され、円通貨の国際的信任が増すのは間違いない。
これは同時に民主党の財政運営に対する懸念も晴らすことになる。同党の高速道路無料化や子ども手当創設などはかねてバラマキ政策と目され、「いずれ国債増発に頼らざるを得ないだろう」(外資系証券エコノミスト)とみられている。
金融政策の独立性を担保する財金分離原則は、財政バラマキに歯止めをかけるだろう。
与党になったら、前言撤回ですか?
「財務省が支配的になるのは好ましくない」――と当時武藤副総裁の昇格案を批判(菅直人氏)〔AFPBB News〕
民主党のマニフェスト(政権公約)には財金分離の原則は謳われていない。過去の民主党の行動、発言から類推すれば、「あまりにも当たり前のこと」なので、盛り込む必要がなかったということだろう。
ただ、8月7日のマニフェストに関する市場関係者向け説明会で、大塚耕平政調副会長が発言した内容は、どうにも気になる。
報道によると、同副会長は金融政策運営について「マクロ経済運営で何らかのアコード(政策協定)はあり得る」と指摘。また、日銀の国債買い入れに関連し、「(日銀が)財政ファイナンスに協力する余地がある」との認識を示したという。
質疑応答の中で空論を不用意に漏らしたに過ぎないと思いたいが、大塚氏は日銀OBで金融・財政政策に精通する人物でもある。
財政運営が厳しくなれば日銀を当て込むしかない、日銀にインフレターゲットという政策協定を飲ませてデフレ対策を丸投げしよう。――まさか、そんな本音が漏れてしまったわけではあるまい。
財金分離原則を撤回するなら、三顧の礼で総裁に迎え入れるべし(武藤敏郎氏)〔AFPBB News〕
新政権が財金分離を撤回して日銀に国債買い入れの増額を要求する、またはインフレターゲットを強制するなら、総裁人事混迷には別の意味で落とし前をつけてもらわなければならない。
具体的には以下の通りだ。
・民主党的には財金融合派であったはずの武藤敏郎氏に土下座して詫びる。
・民主党が副総裁候補として拒否したインフレターゲット論者の伊藤隆敏東京大学教授にも土下座して詫びる。
・日銀法を再改正し、現在の正副総裁を罷免。三顧の礼をもって武藤総裁、伊藤副総裁を迎え入れる。
民主党が財金分離を貫けない事態になるのは誠に残念だが、方針転換に際してしかるべく落とし前をつけるのであれば、政権与党の筋の通し方としては立派であると評価しよう。


